「ポリエチレン(PE)を使って部品を試作したいけれど、実際の環境(熱湯や高温下)で溶けたり変形したりしないか心配…」
設計や開発の現場では、このような材料選定のお悩みがよく発生します。
ポリエチレンは非常に扱いやすいプラスチックですが、種類(密度)によって耐えられる温度が大きく異なります。用途に合わない種類を選んでしまうと、試作やテストで失敗してしまう原因になりかねません。
この記事では、「プラスチック試作のプロフェッショナル」として数多くの試作開発をサポートしてきた荒川技研株式会社が、ポリエチレンの耐熱温度について分かりやすく解説します。
- 種類で違う低密度(LDPE)は約70〜90℃、高密度(HDPE)は約90〜110℃が目安
- 注意点「一時的な耐熱」と「安全に使い続けられる温度」は別物
- 代替案耐熱性が足りない場合は、PEEKやPEIなどのエンプラへ変更も検討
1. ポリエチレンの耐熱温度とは
ポリエチレン(PE)は、私たちの身の回りから工業製品まで幅広く使われているプラスチックです。
しかし、「ポリエチレン」とひとくちに言っても、その作り方(密度)によって性質が大きく変わります。ここでは、代表的な3種類のポリエチレンについて、耐熱温度の一般的な目安を見ていきましょう。
LDPE(低密度)の耐熱温度
LDPEは、柔らかくて透明感があり、加工しやすいのが特徴です。身近なところでは、ポリ袋や食品の容器などに使われています。
このLDPEの耐熱温度は、約70℃〜90℃とされています。100℃に満たないため、熱湯を入れたり、高温になる機械のそばで使ったりすると、熱で柔らかくなって変形してしまう恐れがあります。常温付近で使う部品に向いている材料と言えます。
HDPE(高密度)の耐熱温度
HDPEは、LDPEよりも硬く、強度が高いのが特徴です。スーパーのレジ袋(シャカシャカしたもの)や、パイプ、タンクなどに使われます。
耐熱温度は約90℃〜110℃と、LDPEよりも少し高くなります。短い時間であれば熱湯に耐えられる場合もありますが、常に100℃近い環境で使い続けるには不安が残る温度帯です。少し温かくなる程度の環境であれば問題なく使用できます。
UHMW(超高分子量)の耐熱性
UHMWは、耐摩耗性(すり減りにくさ)や滑りやすさが非常に優れた高性能なポリエチレンです。工場などで物を運ぶガイドレールや、歯車などの部品によく使われます。
強度は抜群ですが、耐熱温度の目安は約90℃前後となっており、熱に対する強さはHDPEとそれほど変わりません。摩擦には強いものの、高温環境での使用には注意が必要です。
2. 耐熱温度の正しい見方・注意点
カタログやインターネットでポリエチレンの「耐熱温度」を調べるときには、数字の読み方に注意が必要です。
「この温度までなら絶対に大丈夫」と誤解して試作を進めると、実際のテスト環境で思わぬ変形などのトラブルが起きる可能性があります。ここでは、材料選びで失敗しないための2つのポイントを解説します。
融点と連続使用温度の違い
プラスチックの熱に対する強さを表す言葉には、主に「融点(ドロドロに溶ける温度)」と「連続使用温度(安全に使い続けられる温度)」があります。
例えば、ポリエチレンの融点が約130℃だったとしても、120℃で部品として正常に使えるわけではありません。プラスチックは、完全に溶ける温度よりずっと低い温度から、少しずつ柔らかくなり始めます。
部品としての形や強さを保ったまま、長期間にわたって安全に使用できる上限が「連続使用温度」です。試作開発の材料を選ぶ際は、単に溶けないかではなく、この「連続使用温度」が実際の使用環境を上回っているかを確認してください。
荷重による耐熱性の変化
もうひとつ気をつけたいのが、「部品に力が加わる環境かどうか(荷重)」です。
プラスチックは、熱が加わった状態で強い力がかかったり、ネジで強く締め付けられたりすると、本来の耐熱温度よりもずっと低い温度で変形してしまう性質があります(これを熱変形温度と呼びます)。
例えば、圧力がかかる配管のジョイント部品や、他の重い部品と組み合わさるような用途では、カタログ上の耐熱温度ギリギリの材料を選ぶのは危険です。熱だけでなく「力(荷重)」も計算に入れて、余裕を持った材料選びをする必要があります。
3. 他の代表的な樹脂との耐熱比較
ポリエチレンの耐熱性に不安がある場合、他のプラスチック材料への変更を検討することになります。
ここでは、試作や部品開発でポリエチレンとよく比較される代表的な樹脂を取り上げ、耐熱温度や性質の違いを解説します。
ポリプロピレン(PP)との違い
ポリエチレン(PE)と最もよく比較されるのが、ポリプロピレン(PP)です。どちらも生活用品から工業製品まで広く使われている身近なプラスチックですが、熱に対する強さには明確な違いがあります。
PPの一般的な耐熱温度(連続使用温度)は約100℃〜120℃程度であり、PE(特にLDPEやHDPE)よりも優れた耐熱性を持っています。そのため、「PEでは熱湯や高温環境で柔らかくなってしまうが、もう少しだけ熱に強い材料にしたい」というケースでは、PPが最初の代替候補となります。
ただし、PPは粘性が高く、切削加工時に摩擦熱で溶けやすかったり「バリ」が出やすかったりするという加工上の難点があります。指定された図面通りに美しい試作品を作るためには、適切な刃物選定と高度な加工技術が求められます。
POMやテフロン等との違い
機械の内部部品や、滑りやすさ(摺動性)が求められる部品の試作では、POM(ポリアセタール)やPTFE(テフロン)と比較されることも多くあります。
POMは「ジュラコン」という商品名でもよく知られています。連続使用温度は約90℃〜100℃程度とPEやPPと大きくは変わりませんが、熱がかかる環境下でも寸法が狂いにくい(寸法安定性が高い)という優れた性質を持っています。そのため、高い精度が求められるギア(歯車)などの精密部品には、PEよりもPOMが選ばれます。
一方、PTFE(テフロン)は連続使用温度が約260℃と非常に高く、熱に対しては圧倒的な強さを誇ります。さらに摩擦係数が極めて低くよく滑りますが、素材自体が非常に柔らかいのが特徴です。そのため、力を加えると変形しやすく、切削加工で厳しい寸法精度を出すのが難しいという側面を持っています。
4. 耐熱性が不足する場合の代替案
ポリエチレンでの試作を検討していたものの、「実際の使用温度を考えるとどうしても耐熱性が足りない」というケースは少なくありません。
荒川技研では、お客様から指定された材質をそのまま加工するだけでなく、使用温度や強度、摺動性(滑りやすさ)、透明性などの条件を事前にしっかりとヒアリングし、用途に対して材料特性が不足する場合には別の樹脂材料をご提案しています。
スーパーエンプラへの変更
高い耐熱性や機械的強度、耐薬品性など、極めて過酷な環境での使用が想定される場合には、「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」への材質変更が有力な選択肢になります。
代表的なものとして、連続使用温度が200℃を超えるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)や、琥珀色で半透明ながら高い耐熱性と難燃性を持つPEI(ウルテム)などが挙げられます。
これらの材料は非常に高性能ですが、材料費が高価であり、切削加工の難易度も跳ね上がります。そのため、「本当にそのスペックが必要か」を見極めると同時に、難削材を確実な精度で削り出す加工業者の技術力が不可欠になります。
専門家への材料選定相談
材料選定においては、「あちらを立てればこちらが立たず」というトレードオフがよく発生します。
例えば、「内部が見えるように透明な部品を作りたい」というご要望があった場合、透明度の高さからアクリルが第一候補に挙がります。しかし、アクリルは高温環境には適さないため、もし高温の流体を流す用途であれば、耐熱性と強度が求められるポリカーボネート(PC)やPEI(ウルテム)などを代替案として検討しなければなりません。
試作段階において重要なのは、「その材料が加工できるか」だけではなく、「実際の使用環境に耐えられるか」までを見据えることです。荒川技研では、長年の樹脂切削加工の経験をもとに、お客様と一緒に最適な材料を考えることを大切にしています。材料選びで迷った際は、ぜひ専門家へご相談ください。
5. 荒川技研のプラスチック試作
材料選定の段階では、「この材料で本当に大丈夫なのか」「耐熱性や強度は足りるのか」「切削したときに反りや寸法変化が出ないか」など、図面だけでは判断しにくい課題が数多く存在します。
荒川技研では、指定された図面をそのまま加工する単なる加工屋としてではなく、これまでの樹脂切削加工の経験をもとに、材料の特性や加工時の注意点も含めて一緒に考える「開発パートナー」であることを大切にしています。
本番環境を想定した切削試作
特に新製品の開発では、最初から正解の材料や形状が決まっているとは限りません。だからこそ、まずは1個の試作品を実際の材料(あるいはそれに近い特性を持つ代替樹脂)から切削し、「形状は問題ないか」「強度は足りるか」「量産前に改善すべき点はないか」をテスト確認することに大きな意味があります。
荒川技研では、量産品と同じ形状に近いものを切削で製作できるため、単なる外観確認にとどまらない、実際の機能評価用試作品を1個からご提供可能です。材料選びや加工方法で迷っている段階、「この用途ならどの樹脂が良いだろう?」という構想段階からでも、ぜひご相談ください。
エンジン周りの可視化モデル
荒川技研の技術的な強みの一つが、アクリルやポリカーボネートなどの透明樹脂を用いた「可視化モデル」の製作です。
通常、切削直後の透明樹脂は刃物の痕によって白く曇ってしまいますが、当社では独自の切削条件の工夫に加え、研磨や特殊な「エアロラップ工法」などを組み合わせて高い透明度を実現しています。
こうした可視化モデルは、金属部品では外側から確認できない内部の状態を「見える化」するために活用されます。例えば、自動車のエンジン周辺部品におけるオイルや冷却水(クーラント)の流れ、気泡の発生、流体の滞留などを目で確認するための試験・評価に最適です。
「内部で何が起きているのか確認したい」「実際の流れを見たい」という開発現場の高度な要求に対し、確かな加工技術でお応えします。

