MCナイロン加工とは?特性と他樹脂との違い
MCナイロン加工の特徴とメリット・デメリット
自社で精度の高いMCナイロン部品を加工したいが、変形や反りが心配…
MCナイロン(モノマーキャストナイロン)は、一般的なナイロン(PA6)よりも分子量が高く、優れた機械強度・耐摩耗性・自己潤滑性を持つエンジニアリングプラスチックです。加工性が比較的高く、かつ金属代替としても機能するため、多くの産業分野で活用されています。 メリットとしては以下が挙げられます。
– 金属に比べて軽量で加工が容易
– 摺動性が高く、潤滑剤なしでも使用可能
– 衝撃吸収性があり、機械部品に適している
– 吸音性・耐薬品性も一定レベルで保持 一方、デメリットは以下の通りです。
– 吸水性があり、寸法変化が起きやすい
– 高温下では熱変形のリスクがある
– 強酸や有機溶剤にはやや弱い傾向 特に加工においては、**吸湿による反りやバリ発生**を防ぐための「アニール処理」や「切削油を使わない加工」など、実績に基づいたノウハウが品質を大きく左右します。MCナイロン加工には、吸湿対策と後処理ノウハウが必要不可欠です。
MCナイロンとPOM・PEEKなどとの違い
他の樹脂とどう違うのか分からない…
以下に代表的なエンプラ素材とMCナイロンの特性を比較した表を掲載します。| 項目 | MCナイロン | POM(ジュラコン) | PEEK |
|---|---|---|---|
| 耐摩耗性 | 非常に高い | 高い | 中程度 |
| 吸水率 | やや高い(寸法変化あり) | 非常に低い | 非常に低い |
| 耐熱温度 | 約120℃前後 | 約100℃前後 | 250℃以上 |
| コスト | 低~中 | 中 | 非常に高い |
| 主な用途 | スプロケット・ギア・治具 | 摺動パーツ・歯車・ガイド | 医療部品・高温部品・半導体 |
素材ごとの得意分野を理解することが、加工トラブルの予防につながります。
MCナイロン加工が選ばれる用途とは
どんな場面でMCナイロンが使われているのか知りたい!
MCナイロンはその加工性と機械特性のバランスから、以下のような産業分野・用途で幅広く活用されています。 – **組立・加工用治具**:MC901を使用し、軽量かつ衝撃吸収性を活かした組立ラインでの治具に
– **スプロケットやギア**:耐摩耗性が求められる動力伝達部品に
– **ロボット部品**:カムプレートやチャッキング爪など、可動部品の摺動材に
– **絶縁構造部品**:MC801などの耐候グレードを使い、屋外対応のスペーサーやプレートに また、導電グレード(MC501CDR2)や帯電防止グレード(MC501CDR6)は、クリーンルーム対応の治具やカバー材としても利用されています。| グレード | 用途例 | 特長 |
|---|---|---|
| MC901 | 加工・組立用治具 | 強靭で高い機械特性 |
| MC602ST | 検査・測定治具 | 高強度・耐熱性 |
| MC801 | 搬送ライン用パーツ | 耐候性が高く屋外向け |
| MC501CDR2/6 | クリーンルーム治具 | 導電・帯電防止性能 |
用途に応じて最適なMCナイロングレードを選定することが、品質とコストの最適化につながります。
MCナイロンのグレード別加工特性
MCナイロンは、用途・環境・求められる機械特性によって複数のグレードが展開されています。 本章では、代表的なグレード(MC901 / MC900NC / MC703HL / MC602ST / MC501シリーズ)について、加工性と適用例を具体的に紹介します。 グレードの違いが分からず、最適な素材選定に迷っている…
グレードごとに特性を理解することで、誤った選定による変形・摩耗・帯電トラブルなどを防ぎ、最適な加工品質を得ることができます。MC901・MC900NCの加工性と使用例
MC901(青)とMC900NC(ナチュラル)は、MCナイロンのスタンダードグレードです。 高い機械強度と耐摩耗性により、樹脂治具や機械部品に最も広く採用されています。 特性のポイント – 強靭性と耐衝撃性が高い – 汎用性が高く様々な部品に対応 – 加工性が良く、切削加工で寸法精度を出しやすい 主な使用例(実績に基づく) – 組立用治具 – 測定・検査治具 – ロボットチャッキング爪 – ガイド部品・ライナー| グレード | 特長 | 主な用途 |
|---|---|---|
| MC901 | 強靭・耐摩耗・衝撃に強い | 組立ライン治具・搬送部品 |
| MC900NC | 寸法精度・切削仕上げに優れる | 検査治具・精密ボード部品 |
初めてMCナイロンを選ぶ場合は、MC901 / MC900NCが最もバランスの取れた選択です。
MC703HL・MC602STのグレード特徴と加工用途
高荷重・摺動用途で摩耗を抑えたい…
MC703HLは摺動性を強化したグレード、MC602STは高強度・耐熱性を持つグレードです。 MC703HL(摺動グレード)
– 非常に高い耐摩耗性
– 長ストローク摺動部、駆動部に最適
– 低摩擦で潤滑不要の環境にも強い MC602ST(高強度・耐熱グレード)
– 高荷重条件で寸法安定性が高い
– 熱膨張が少なく精度保持に優れる
– 高温下の治具・精密圧入治具などに採用 実績例
– 搬送ライン部品
– 高強度治具(高温設備対応)
– ローラー・スプロケット| グレード | 機能 | 用途 |
|---|---|---|
| MC703HL | 高摺動・耐摩耗 | ローラー・スライダー |
| MC602ST | 高強度・耐熱性 | 高温治具・検査治具 |
動きの多い摺動部はMC703HL、熱影響のある治具はMC602STが最適です。
導電・帯電防止グレードの加工特性と活用事例
静電気が発生する環境やクリーンルームで使いたい…
MC501CDR2 / CDR6は、静電気を嫌う環境で活躍する導電・帯電防止グレードです。 特性
– 静電気の蓄積を抑え、微粒子付着を防止
– 半導体・電子・医療分野の設備に最適
– クリーンルーム設備での信頼性が高い 用途例(実績)
– クリーンルーム用治具
– 搬送フォーク・ガイドレール
– ウェハ搬送関連パーツ| グレード | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| MC501CDR2 | 導電グレード | 半導体治具・放電防止部材 |
| MC501CDR6 | 帯電防止グレード | クリーンルーム治具 |
静電気対策が必要な現場ではMC501シリーズが最適です。
MCナイロン加工の注意点と成功のポイント
MCナイロンは非常に優れたエンプラ素材である一方、吸湿性や熱による寸法変化など、加工時に注意すべき特性も持ち合わせています。 ここでは、MCナイロン加工を成功させるための重要なポイントを、現場視点と実務経験に基づいて解説します。 MCナイロン加工は簡単そうに見えて、意外とトラブルが多い…
寸法変化・吸湿対策と加工精度の確保
MCナイロンは**吸水率が比較的高い(0.8~1.5%)**ため、周囲の湿度や水分により**膨張・収縮が発生しやすい素材**です。 特に長期間保管した素材や、梅雨時期などは、寸法変化による加工不良のリスクが高まります。 対策として有効なのが「アニール処理」です。 弊社では、MCナイロン素材を加工前に**アニールBOXで熱処理し、残留応力を除去**する工程を設けており、これにより反りや割れを大幅に抑制しています。 また、加工後も寸法が落ち着くまで**室温での放置乾燥(調湿)**を行うことで、長期的な寸法安定性が確保できます。| 課題 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 反り・割れ | 残留応力 | アニール処理を実施 |
| 寸法のバラつき | 吸湿による膨張 | 加工前後に調湿・乾燥管理 |
| 部品どうしの干渉 | 設計クリアランス不足 | 湿度変化を見越した設計値調整 |
MCナイロン加工では「湿度」と「熱」の影響を前提に設計・加工することが重要です。
MCナイロン切削加工の条件と工具選び
MCナイロンは金属と比べて柔らかく粘りがあるため、**切削抵抗の変動やバリ発生**が起こりやすい素材です。 以下は切削条件の一例です(加工機:FANUC ROBODRILL) – 回転数:5,000~10,000rpm(高速回転が基本) – 送り速度:0.1~0.3mm/rev(条件に応じて調整) – 切削深さ:0.5~2mm程度 – クーリング:**切削油は使わず、圧縮エアーで冷却**(吸湿防止) 工具選定のポイント – 超硬エンドミルまたはダイヤコート付き工具 – チッピングを防ぐための逃げ角が大きい工具が有効 – 特に小径・薄肉形状では、工具の剛性と保持力が重要 弊社では、切削油を一切使用せず、**圧縮エアーのみでのドライ加工**を行っているため、吸湿・変形トラブルのリスクを最小化しています。加工条件は素材特性に応じて柔軟に調整し、過剰な切削熱を避けましょう。
よくあるMCナイロン加工トラブルと対処法
MCナイロンの切削加工では、素材特性に起因するトラブルがいくつか存在します。| トラブル内容 | 原因 | 対策方法 |
|---|---|---|
| 反り・ねじれ | 残留応力/吸湿 | アニール処理・室温管理 |
| 切削バリの多発 | 工具摩耗/送り過多 | シャープな工具使用/加工条件の最適化 |
| 寸法公差不良 | 加工後の膨張・収縮 | 乾燥・養生時間を考慮した工程設計 |
加工したけど反ってしまった…を防ぎたい!
トラブルの多くは、事前の処理・工程設計で予防できます。
MCナイロン加工の事例紹介と依頼の流れ
MCナイロンはその高い耐摩耗性や機械的強度から、幅広い業界で部品・治具として利用されています。 ここでは、実際の加工事例とともに、初めてMCナイロン加工を依頼する際に役立つ準備事項や業者選定のポイントを解説します。 どんな製品に使われているのか実例が知りたい!
加工事例:ギア・ローラー・スペーサーなど
MCナイロンは「軽量」「耐摩耗」「摺動性」といった特徴を活かし、特に**動く部品や治具用途**で多用されています。 荒川技研では以下のような加工実績があります。| 製品名 | 使用グレード | 特長・用途 |
|---|---|---|
| 搬送用ローラー | MC703HL | 高摺動性・メンテナンスフリー |
| 絶縁スペーサー | MC801 | 屋外使用・耐候性・電気絶縁性 |
| スプロケットギア | MC901 | 軽量化と衝撃緩衝効果 |
| チャッキング爪 | MC900NC | 繰返し使用でも摩耗しにくい |
| クリーンルーム用治具 | MC501CDR6 | 帯電防止で微粒子付着を防止 |
MCナイロンは部品の「軽量化」や「静音化」にも有効で、金属からの置き換え実績も豊富です。
MCナイロン加工を依頼する際の見積と準備
加工を依頼する際には、以下の情報を整理しておくことで**スムーズな見積もり取得と精度の高い仕上がり**が期待できます。| 準備すべき情報 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 図面・仕様書 | DXF / PDF / STEPなど | 公差・ねじ・溝形状などの指示も忘れず |
| 用途・使用環境 | 屋外/屋内・温度・湿度など | グレード選定の根拠となる |
| 希望納期 | 試作納期 or 量産スケジュール | 短納期希望の場合はその旨明記 |
| ロット数 | 試作1個〜量産100個以上など | 工程・コスト最適化に直結 |
図面がまだ完成していない段階でも相談できる?
事前に「使用目的」や「課題」まで共有いただけると、より適した加工提案が可能です。
信頼できるMCナイロン加工業者の選び方
MCナイロンは「加工性が良い」と言われがちですが、実際には**吸湿・熱変形・残留応力など専門的な対処が求められる素材**です。 業者を選定する際には、以下の観点が重要になります。- MCナイロンの加工実績が豊富であること
- アニール処理など前処理への対応力があること
- クリーン環境や特殊治具に対応可能であること
- 検査機器と品質保証体制が整っていること
- 小ロット/短納期対応が柔軟であること
MCナイロンに精通した業者を選ぶことで、後戻りのないスムーズな部品開発が実現します。
