絶縁樹脂の種類・特徴・主な用途を解説

絶縁樹脂は、電気を通さない特性を持つ樹脂材料です。エポキシ樹脂やフェノール樹脂、ポリエステル樹脂といった絶縁性に優れたプラスチックが、電子機器や電力設備、自動車産業などで広く利用されています。それぞれの特徴を理解し、用途に合わせて適切な樹脂を選択することが重要です。この記事では、絶縁樹脂の基本的知識から、種類と特徴、主な用途を解説します。

絶縁樹脂とは

絶縁樹脂は、電気を通しにくい性質を持つ高分子材料です。体積抵抗率が高く、誘電率が低いといった特徴を持つことから主に絶縁目的で使用され、電流の漏れや短絡を防ぐ重要な役割を果たします。

絶縁のメカニズムは、樹脂内部の分子構造によるものです。これらの樹脂は、自由電子をほとんど持たない共有結合で構成されているため、電流がほとんど伝わりません。

絶縁樹脂はエンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンプラに分類されるものが多く、絶縁性以外の特性にも優れています。例えば、耐熱性や耐薬品性、耐久性、機械的強度などが高い水準にあり、過酷な環境下でも使用可能です。製品素材として優秀な特性を持つことから、絶縁樹脂は幅広い分野で利用されています。

絶縁樹脂の種類と特徴

代表的な絶縁樹脂の種類と、それぞれの体積抵抗率、絶縁破壊強度、誘電率を下表にまとめました。

主な絶縁樹脂の種類と絶縁性の一覧

樹脂の種類体積抵抗率 (Ω·cm)絶縁破壊強度 (kV/mm)誘電率(106Hz)
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)>101819 – 202.1
ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)>101812 – 162.7 – 4.7
PEI(ポリエーテルイミド)1018 – 1019243.1 – 3.7
PC(ポリカーボネート)1018 – 101931 – 332.9
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)1017 – 1018153.3
PP(ポリプロピレン)>1016242.2 – 2.6
EP(エポキシ)1014 – 101820 – 303.3 – 4.0
PPS(ポリフェニレンサルファイド)1014 – 101519 – 304.0
SI(シリコーン)101416 – 223.2 – 4.3

以下、各絶縁樹脂の特徴を解説します。

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)

PTFEは、一般的には「テフロン」として知られ、極めて高い耐熱性と耐薬品性を持つフッ素樹脂です。非粘着性や低摩擦性も優れており、滑りやすい表面を必要とする用途で利用されます。ただし、熱流動性が低いため、成形加工は難しいです。

ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)

ABS樹脂は、機械的強度と耐衝撃性に優れています。成形加工が容易で寸法安定性も高く、複雑形状の製品も製造可能です。電子機器のハウジングや自動車部品、家庭用品など幅広い用途で使用されます。また、高い光沢と染色性により、美観を要求される製品にも適しています。ただし、可燃性であることや有機溶剤に溶けてしまうことには注意が必要です。

PEI(ポリエーテルイミド)

PEIは、優れた機械的強度と耐熱性を持つスーパーエンプラです。成形性も良く、複雑形状の加工にも対応できます。難燃性と耐放射線性もあり、過酷な環境でも安定した性能を発揮するため、電子部品や航空宇宙産業などで使用されています​。

PC(ポリカーボネート)

ポリカーボネートは、汎用エンプラでは唯一の透明樹脂です。耐衝撃性や耐熱性、耐候性に優れています。また、加工性と寸法安定性も良好で、機械部品や光学機器、日用品など幅広い分野で使用されています。

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

PEEKは、高い耐熱性と耐薬品性を持つスーパーエンプラです。機械的強度も優れており、厳しい使用条件に耐えうる樹脂素材です。航空宇宙や医療、自動車など、信頼性が求められる用途に適しています​。ただし、高価な素材であることに留意する必要があります。

PP(ポリプロピレン)

ポリプロピレンは、軽量でありながら耐薬品性と機械的強度も兼ね備える、使い勝手の良い汎用樹脂です。耐熱性が比較的高く、生体適合性も良いため、食品包装材や家庭用品、医療部品、自動車部品など多岐にわたる用途で使用されています。

EP(エポキシ)

エポキシ樹脂は、強力な接着力と優れた耐薬品性を持つ熱硬化性樹脂です。半導体の封止材としての用途のほか、建材や構造材料の接着剤、自動車ボディなどの塗装用塗料、道路の舗装材としても使用されます。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)

PPSは機械的強度に優れ、高い耐熱性と耐薬品性も持つスーパーエンプラです。充填剤や強化剤を添加し、耐衝撃性などを高めたものを使用することが一般的です。寸法安定性が高く、自動車部品や電子機器に広く用いられます。

SI(シリコーン)

シリコーン樹脂は、耐熱性や耐候性に優れた熱硬化性樹脂です。医療機器や電子機器の封止材、耐熱シーリング材として使用されることが多いです。撥水性や非粘着性を活かした特殊な用途にも活用されています。強酸や強アルカリ、熱水によって分解することに注意が必要です。

絶縁樹脂の主な用途

絶縁樹脂の多くは、絶縁性だけでなく、耐熱性や耐薬品性、機械的強度などにも優れており、幅広い分野で用いられています。

絶縁樹脂の主な用途は次の通りです。

  • 電気・電子機器
  • 電力機器
  • 自動車産業
  • 航空宇宙産業
  • 医療機器

以下、それぞれ解説します。

電気・電子機器

絶縁樹脂は、電気・電子機器の製造において不可欠で、プリント基板の回路間を絶縁する目的などに利用されています。特にエポキシ樹脂やシリコーン樹脂は、半導体封止材として重要なプラスチックです。半導体チップ・デバイスを、振動や衝撃、湿気、塵から保護し、長期にわたって信頼性を維持します。

電力機器

電力機器の信頼性と安全性を向上させるために、絶縁樹脂が有用です。絶縁樹脂で作られたブッシング(碍子)は、電線を支えると同時に電気を通さない部材として使用され、送電線の安定性を確保します。変圧器では、絶縁紙や絶縁オイルとともに、コイルの絶縁に絶縁樹脂を使用して、電気的な短絡を防いでいます。開閉器のケースにはABS樹脂がよく用いられており、感電を防止するのに効果的です。

自動車産業

自動車産業では、絶縁樹脂がさまざまな電装部品に使用されています。例えば、PTFEは電気自動車のバッテリー電極バインダーや電気モーターのシャフトシールなどに必要な素材です。また、ブレーキセンサーやトランスミッションのワイヤーハーネスといった、電気系統の部品にも広く採用されています。エポキシ樹脂は、ECUや各種センサー、モーターなどの電装部品の封止材として広く利用され、振動や湿気から保護する役割を果たしています。

航空宇宙産業

航空宇宙産業では、絶縁樹脂の特殊な環境条件に対する耐性が求められます。NASAの火星探査機「スピリット」と「オポチュニティ」は、ケーブル絶縁ブロックにフッ素樹脂が使用され、高温、高圧、放射線といった過酷な環境の中でも正常に通信を行うことができました。また、エポキシ樹脂の絶縁接着剤も、航空機や宇宙探査機の電装部品・電子機器に利用されており、電気系統の信頼性と安全性を維持します。

医療機器

医療機器においては、フッ素樹脂やシリコーン樹脂、PEIなどが、医療用センサーや診断機器、手術用機器の絶縁部品として用いられています。とりわけPEIは、耐熱水性や耐放射線性にも優れるため、滅菌処理を繰り返しても劣化しにくいのが特長です。

COPYRIGHT © 2020 ARAKAWA-GIKEN all rights reserved.