導電性が高い樹脂・低い樹脂|帯電性が高い樹脂・低い樹脂

樹脂の導電性と帯電性は、種類によって異なります。導電性が高い樹脂は電気を通しやすく、電子機器や静電気防止材料に最適です。また、電気抵抗値が調整された、導電グレードや帯電グレードの樹脂も存在し、用途に応じて適切な選択をする必要があります。この記事では、導電性と帯電性の基礎知識、樹脂の導電性・帯電性の一覧、各グレードの用途について解説します。

導電性とは

導電性とは、物質が電気を通す能力のことです。導電性が高い材料は電気を効率よく伝えられるため、電子機器や電気回路などで重要な役割を果たします。

導電性は、主に材料の内部にある自由電子の数と移動のしやすさによって決まります。金属やグラファイトなどの導電性は高いですが、プラスチックは基本的に導電性が低く、ゴムやガラスなどと同様に絶縁体として用いられることが多いです。しかし、特定の加工や添加剤の使用によって樹脂にも導電性を持たせることができます。

導電性が高い樹脂としては、導電率が高いフィラー(カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粉末など)を添加した「導電性樹脂」や、分子構造自体が導電性を持つ「導電性ポリマー」が代表的です。

帯電性とは

帯電性とは、物質が静電気を帯びる特性を指します。静電気は、物質間の摩擦や接触により電荷が移動することで発生しやすく、特に乾燥した環境では顕著です。プラスチックの多くは静電気を蓄えやすい性質があり、帯電性の高い物質に該当します。

電子機器の場合、静電気の蓄積は誤動作や火災の原因となるため、製品素材の帯電性を管理することが重要です。樹脂の帯電性を抑えるには、帯電防止剤を使用したり、導電性材料を混ぜたりする方法があります。クリーンルームや静電気対策が必要な製造現場において、帯電性を低減した樹脂が広く利用されています。

導電性と帯電性の関係

導電性と帯電性は、どちらも物質固有の電気的特性ですが、それぞれ異なる概念です。以下、導電性と帯電性の関係について解説します。

導電性と帯電性の違い

基本的には、導電性と帯電性は対になる特性といえます。導電性は物質がどれだけ電気を通すかを示し、帯電性は物質が静電気を帯びやすいかを表す指標です。一般的に、高い導電性を持つ物質は静電気を溜めにくいため、結果として帯電性が低くなります。これは、導電性が高い物質では電荷が自由に移動しやすいため、静電気が蓄積されにくいからです。ただし、ポリカーボネートやポリアミドのように、導電性と帯電性がともに低い樹脂も存在します。

体積抵抗率との関係

物質の導電性と帯電性を知る目安として、体積抵抗率や表面抵抗率が用いられます。特に体積抵抗率が低いほど物質は高い導電性を持ち、静電気を帯びにくいことを示します。例えば、金属は体積抵抗率が非常に低く、電気をよく通すため帯電しにくいです。一方、プラスチックなどの絶縁体は体積抵抗率が高いことから、静電気を蓄えやすい傾向にあります。

体積抵抗率と導電性・帯電性の関係

導電性帯電性
体積抵抗率が高い低い高い
体積抵抗率が低い高い低い

導電性や帯電性のコントロール

樹脂の成分を変えて体積抵抗率を調整し、導電性や帯電性をコントロールできます。具体的には、カーボンなどの導電性材料を添加して体積抵抗率を下げることで、導電性を高められます。また、帯電防止剤を使用すれば静電気の蓄積を抑えることも可能です。導電性や帯電性が適切にコントロールされた樹脂は、電子部品や電子機器の筐体、クリーンルームの装備、静電気対策が必要な環境で広く利用されています。

樹脂の導電性・帯電性

樹脂の導電性および帯電性は、材料の選定や設計において重要です。以下の表では、主要な樹脂の種類とその体積抵抗率、導電性、帯電性をまとめています。

樹脂の種類と導電性・帯電性

樹脂の種類体積抵抗率 (Ω·m)導電性帯電性
ポリエチレン(PE)>1016低い高い
ポリプロピレン(PP)>1016低い高い
ポリスチレン(PS)>1016低い高い
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)>1018低い高い
ポリアニリン(PANI)10−2 – 102高い低い
カーボンナノチューブ複合樹脂(CNT)10−4 – 10-1高い低い
ポリピロール(PPy)10−3高い低い
ポリカーボネート(PC)>1018低い低い
ポリアミド(PA)1011 – 1014低い低い 

※ポリアニリン(PANI)とポリピロール(PPy)はドーピング方法によって体積抵抗率の値が変動します。

導電性が高い樹脂・低い樹脂

導電性の高い樹脂導電性の低い樹脂
ポリピロール(PPy)ポリアニリン(PANI)カーボンナノチューブ複合樹脂(CNT)ポリエチレン(PE)ポリプロピレン(PP)ポリスチレン(PS)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ポリカーボネート(PC)ポリアミド(PA)

帯電性が高い樹脂・低い樹脂

帯電性の高い樹脂帯電性の低い樹脂
ポリエチレン(PE)ポリプロピレン(PP)ポリスチレン(PS)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ポリアニリン(PANI)カーボンナノチューブ複合樹脂(CNT)ポリピロール(PPy)ポリカーボネート(PC)ポリアミド(PA)

それぞれの樹脂の特徴

ここでは、一覧表に取り上げた樹脂の特徴を紹介します。

ポリエチレン(PE)

PEは代表的な熱可塑性樹脂で、軽量で耐薬品性にも優れる汎用プラスチックです。食品包装材やパイプ材として広く使用されますが、静電気を帯びやすい性質があります。

ポリプロピレン(PP)

PPは高い耐熱性と強度を持つ汎用プラスチックの一つで、家庭用品や自動車部品に広く利用されています。帯電しやすいため、用途によっては注意が必要です。

ポリスチレン(PS)

PSは透明性が高く、軽量で加工性に優れた熱可塑性樹脂です。汎用プラスチックとしてパッケージやディスプレイ製品に使用されますが、静電気を蓄積しやすい傾向があります。

ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)

PTFEは、耐熱性と耐薬品性に非常に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックです。絶縁性が高いことから、帯電性も高くなります。

ポリアニリン(PANI)

PANIは高い導電性を持ち、抗静電気用途に適した導電性ポリマーです。腐食防止や帯電防止のコーティング材料として利用されます。

カーボンナノチューブ複合樹脂(CNT)

CNT複合樹脂は、カーボンナノチューブをPEEKなどの樹脂へ分散・複合化することにより、優れた導電性と強度を持たせた先端材料です。先端電子機器や高性能部品に採用され、低帯電性により静電気対策が必要な環境での利用も増えています。

ポリピロール(PPy)

PPyは導電性ポリマーの一つで、ピロールの酸化重合によって比較的容易に合成できます。アクチュエータの小型化に寄与し、電子デバイスや化学センサーといった、厳格な静電気対策を必要とする機器素材に最適です。

ポリカーボネート(PC)

PCは高い透明性が特徴で、優れた強度と耐衝撃性もあわせ持つエンジニアリングプラスチックです。絶縁抵抗に優れ、光学ディスクや液晶テレビ、光ファイバーなどに使用されています。

ポリアミド(PA)

PAは一般的には「ナイロン」と呼ばれ、衣料や日用雑貨などによく知られています。強度と耐熱性に優れており、機械部品や自動車部品に適したエンジニアリングプラスチックです。吸湿性を持つことから帯電しにくいという特徴があります。

導電グレードと帯電防止グレードの用途

樹脂材料は、その電気特性に応じて「導電グレード」と「帯電防止グレード」に分類されます。各グレードの樹脂材料は、電子機器や工業製品の性能向上に不可欠です。

導電グレードの樹脂は電気を効率的に通すことを目的としており、主に電子機器の性能向上や保護に使用されます。帯電防止グレードの樹脂は静電気の蓄積を防ぐために選定され、製品の安全性を確保したりクリーンな作業環境を維持したりするのに役立ちます。

導電グレードの用途

導電グレードの樹脂には、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの導電性フィラーが添加されており、体積抵抗率が101〜104 Ω·mの範囲にあります。さまざまな電気接点の接続や伝導に使用され、電子機器やEVおよび燃料電池自動車の部品に利用されます。特に、導電性ポリプロピレンや導電性ポリカーボネートは軽量で加工が容易なため、各種電子部品に広く採用されています。

帯電防止グレードの用途

帯電防止グレードの樹脂の場合、体積抵抗率は106〜1010 Ω·mが一般的です。これにより、静電気による製品の故障や火災のリスクを低減します。帯電防止剤が添加された帯電防止グレード樹脂は、クリーンルームで使用される設備や、半導体・電子部品の搬送、自動車の内装部品などで活用されています。帯電防止ポリエチレンや帯電防止ポリプロピレンは、静電気の発生を効果的に抑え、製品の安全性と信頼性を向上させます。

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