樹脂は現代の多くの製品に使用されており、その特性は非常に多様です。中でも、熱伝導率は樹脂の性能を左右する重要な要素の一つです。本記事では、樹脂の熱伝導率について詳しく解説し、高熱伝導性および低熱伝導性の樹脂の特徴や用途について紹介します。
熱伝導樹脂(高熱伝導率樹脂)とは?
熱伝導樹脂(高熱伝導率樹脂)とは、一般的なプラスチックが持つ「熱を伝えにくい(断熱性が高い)」という性質に対し、フィラーの充填や分子構造の制御によって熱伝導率を高めた機能性樹脂のことです。
一般的な樹脂の熱伝導率が0.1~0.4W/m·K程度であるのに対し、熱伝導樹脂は1.0~20W/m·K以上を目指して開発され、金属部品の代替として軽量化や絶縁性を目的としての採用が進んでいます。
熱伝導率とは
熱伝導率は、物質が熱を伝える能力を数値化したものです。単位は「W/m·K」で、1メートルの厚さを持つ材料の両側に1ケルビンの温度差があるとき、1平方メートルの面積を通過する熱量を表しています。熱伝導率が高いほど熱を素早く伝導し、逆に熱伝導率が低ければ熱を遮断することを意味します。
樹脂の熱伝導率は、ほとんどが0.1〜0.4の範囲に収まっており、金属に比べると非常に低いです。
<代表的な金属の熱伝導率(W/m·K)>
銀(428)、銅(403)、アルミニウム(236)、炭素鋼(50)、チタン(22)
金属の代替として熱伝導樹脂を使うメリット
熱伝導樹脂を金属の代わりに使用することで、以下のような製品設計上のメリットが得られます。
- 軽量化:金属よりも比重が小さいため、製品全体の重量を削減できます。
- 電気絶縁性:多くの樹脂は絶縁体であるため、電子基板やバッテリー周辺でショートを防ぎながら放熱できます。
- 形状自由度:射出成形が可能なため、金属加工では難しい複雑な形状のヒートシンクや筐体を安価に製造できます。
- 耐腐食性:金属のように錆びることがなく、特殊な環境下でも長寿命を維持できます。
熱伝導率の高い樹脂
熱伝導率の高い樹脂は、優れた熱伝導性能を持ち、効率的な熱管理が求められる用途に適しています。以下に、代表的な高熱伝導率樹脂を紹介します。
高熱伝導率樹脂の一覧表
| 樹脂名 | 熱伝導率(W/m·K) |
| PAI(ポリアミドイミド) | 0.38 |
| HDPE(高密度ポリエチレン) | 0.35 |
| PESU(ポリエーテルスルホン) | 0.32 |
| PPSU(ポリフェニルスルホン) | 0.30 |
| PPS(ポリフェニレンサルファイド) | 0.29 |
PAI(ポリアミドイミド)
PAIは、高い耐熱性と機械的強度を兼ね備えたスーパーエンジニアリングプラスチックです。高温環境下でも寸法安定性が高く、金属部品からの置き換えに適しています。
- 主な特徴:最高レベルの耐熱性、耐摩耗性、優れた摺動特性
- 主な用途:半導体製造装置部品、自動車のベアリング・ギヤ、断熱・放熱が必要な電子部品
HDPE(高密度ポリエチレン)
HDPEは高い剛性があり、耐衝撃性や耐熱性、耐寒性、耐薬品性にも優れる汎用プラスチックです。灯油タンクやバケツ、洗剤容器、シャンプー容器、レジ袋、パイプ類、発泡材といった、生活に身近な製品によく用いられています。
PESU(ポリエーテルスルホン)
PESUは、180℃での高温でも連続使用が可能なスーパーエンプラです。耐スチーム性や耐薬品性に優れ、成形性も良好です。自動車部品や電気・電子部品への活用のほか、煮沸消毒やオートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌) を頻繁に行う医療用機器に適しています。
PPSU(ポリフェニルスルホン)
PPSUもPESUと同等の耐熱性を持ち、耐衝撃性に優れたスーパーエンプラです。難燃性が特徴で、航空機の内装用途に利用されます。耐スチーム性と耐薬品性も兼ね備えており、医療用器具や調理器具、食品容器への活用もあります。
PPS(ポリフェニレンサルファイド)
ガラス繊維などで強化されたPPSは強靭で、高温特性においても非常に優秀です。寸法安定性や電気絶縁性、耐薬品性に優れ、難燃性と低発煙性も有します。自動車部品や電気・電子部品、家電部品に広く用いられるスーパーエンプラです。
熱伝導率の低い樹脂
熱伝導率の低い樹脂は、断熱性が高く、エネルギー効率や安全性を求められる用途に適しています。以下に、代表的な低熱伝導率樹脂を紹介します。
低熱伝導率樹脂の一覧表
| 樹脂名 | 熱伝導率(W/m·K) |
| PS(ポリスチレン) | 0.10 – 0.14 |
| SI(シリコーン) | 0.13 – 0.14 |
| PVC(ポリ塩化ビニル) | 0.16 – 0.17 |
| PVDF(ポリフッ化ビニリデン) | 0.17 |
| PP(ポリプロピレン) | 0.17 – 0.19 |
PS(ポリスチレン)
PSは透明性と加工性が良好なことから、食品容器や家電の外装、絶縁材料として使用されています。また、軽量でありながら剛性があるため、使い捨ての日用品から長期使用の建築材まで幅広い用途に適しています。コストパフォーマンスも良く、大量生産で採用しやすい汎用プラスチックです。
SI(シリコーン)
SIは、柔軟性や耐熱性、界面特性に優れる熱硬化性樹脂です。シール材やコーティング材として広く使用されるほか、電気絶縁性も高いため、電子機器の防水・絶縁用途にも適しています。生体適合性があり、医療機器や哺乳瓶乳首、各種パッキンにも使用されます。耐候性と耐寒性にも優れ、長期的な屋外使用も可能です。
PVC(ポリ塩化ビニル)
PVCは柔軟性が高く、加工や着色も容易で安価なため、幅広い用途で利用されています。ただし、耐衝撃性と耐熱性が低いことには注意が必要です。パイプやホース、雨どいなどの建築資材、ビニールシートやフィルムといった農業用具、合成皮革、金属コーティングなどに用いられています。
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
PVDFはフッ素樹脂の中でも高強度を誇り、耐熱性や耐薬品性、耐候性に優れるスーパーエンプラです。半導体製造工場の送水ライン、食品加工機械部品、化学薬品容器、配管システム、フィルター、ライニングなどに使用されます。
PP(ポリプロピレン)
PPは、軽量で成形性が良く、食品容器や家電部品、繊維製品、医療機器など、幅広い用途で使用されています。近年では、3Dプリンターの材料としての活用も広がっています。リサイクル性も高いため、環境に優しい材料です。
樹脂の熱伝導率を向上させる技術
樹脂はさまざまな特性に優れますが、熱伝導率に関しては金属に比べて非常に低いです。樹脂の熱伝導率を金属材料に少しでも近付けることができれば、高性能製品の開発や熱管理の効率化に役立ちます。ここでは、樹脂の熱伝導率を向上させる方法として、熱伝導性フィラーの充填技術、ナノコンポジット技術、成形加工技術について紹介します。
熱伝導性フィラーの充填技術
充填剤を使用することで樹脂の熱伝導率を大幅に向上させることができます。充填剤には、グラファイトや窒化ホウ素、アルミナなどの高熱伝導性材料を用いるのが一般的です。これらの充填剤を樹脂に均一に分散させることで、熱の伝導経路が確保され、全体の熱伝導率が向上します。
例えば、PA(ポリアミド/ナイロン樹脂)に熱伝導性フィラーを大量に配合して、熱伝導率を50W/m·K付近まで高めた新素材も開発されています。
ナノコンポジット技術
ナノコンポジット技術とは、ナノ材料を樹脂に混合することで、熱伝導率を劇的に向上させる技術のことです。CNT(カーボンナノチューブ)やグラフェンといったナノ材料は非常に高い熱伝導性を持ち、樹脂中に少量添加するだけで大きな効果を発揮します。樹脂独自の特性を損なうことなく熱伝導率を向上させ、さらに機械的強度や電気的特性も高めます。
EPやPAを用いたナノコンポジット樹脂は、次世代の高熱伝導・電気絶縁性ポリマー材料として活用が広がっています。
成形加工技術
充填剤やナノ材料を添加すると、樹脂の流動性が大幅に低下します。射出成形や押出成形を行う際に、充填剤やナノ材料を均一に分散させられなければ、期待した熱伝導性が得られません。したがって、樹脂の熱伝導率向上において、高度な成形加工技術は不可欠です。
射出成形では、熱伝導性フィラーを含む樹脂を高精度で成形し、電子機器のヒートシンクや放熱板を生産できます。一方、押出成形は連続的で高品質な加工が得意なため、熱伝導性樹脂部品の大量生産に適しています。
30秒診断|放熱(高熱伝導)か断熱(低熱伝導)か?用途別チェック
樹脂選定において「熱伝導率が高い・低い」は重要な指標ですが、目的を誤ると期待した性能が得られません。以下のチェックで、放熱用途か断熱用途かを簡単に判断できます。
放熱が必要なケース(高熱伝導性樹脂を検討)
- □ 電子部品・LED・電源・モータなど発熱源がある
- □ 部品温度を下げて寿命や信頼性を高めたい
- □ 金属ヒートシンクの軽量化・絶縁化を検討している
- □ 周囲部品への熱だまりを防ぎたい
👉 熱を「逃がす」設計が必要なため、熱伝導率だけでなく電気絶縁性・難燃性・寸法安定性も同時に検討することが重要です。
断熱が必要なケース(低熱伝導性樹脂を選択)
- □ 外部への熱影響ややけど・結露を防止したい
- □ 熱源と人・周辺部品を隔離したい
- □ 保温・保冷・温度保持が目的
- □ 装置外装やカバー用途である
👉 この場合は、熱伝導率の低さに加え、厚み・空気層・接触面積の設計が性能を左右します。

