不燃樹脂・難燃樹脂は、高温環境や火災リスクのある場所での使用に適しており、建築部材や電子機器、輸送機器などの分野で広く利用されています。この記事では、樹脂の燃焼性を決める要素や燃えにくさの指標を踏まえ、不燃樹脂・難燃樹脂の一覧表と主な活用用途を紹介し、さらに樹脂の難燃性を高める方法についても解説します。
樹脂の不燃性・難燃性とは
樹脂の不燃性・難燃性とは、樹脂の燃えにくさのことです。ここでは、樹脂の燃えにくさを決める要素と、樹脂の燃えにくさの指標について解説します。
樹脂の燃えにくさを決める要素
樹脂の燃えにくさは、その構成元素によって決まります。一般的に、構成元素の中に酸素(O)と水素(H)が少ない樹脂は、可燃性ガスの発生量も少なくなるので燃えにくいです。また、フッ素(F)や塩素(Cl)、硫黄(S)などの元素を含む樹脂の場合、不燃性ガスが発生して酸素を遮断するため、難燃性が高くなります。さらに、熱分解温度の高さや添加剤の有無も、樹脂の難燃性に影響を与えます。
樹脂の燃えにくさの指標
樹脂の燃えにくさは、酸素指数やUL94規格などの指標で評価されます。
酸素指数(LOI)
酸素指数は、樹脂が燃焼を維持するために必要な酸素の最小濃度を示します。酸素指数が高いほど難燃性が高くなり、フッ素樹脂の95%が最高値です。通常、酸素指数が22%を超えていれば、着火しても延焼しにくいとされます(大気中の酸素濃度が約21%のため)。
酸素指数 | 22%以下 | 23%~26% | 27%以上 |
燃焼性 | 燃えやすい | 燃えるが自己消火性がある | 燃えにくい |
UL94規格
UL94規格は、米国保険業者安全試験所(Underwriters Laboratories)が定めた樹脂の燃焼性試験方法です。試験結果により、5VA、5VB、V-0、V-1、V-2、HBといったグレードに分類されます。難燃性が求められる用途では、V-0以上の樹脂材料を選定するのが望ましいです。
不燃樹脂・難燃樹脂の一覧
酸素指数が高く、UL94規格もV-0以上である不燃樹脂・難燃樹脂をまとめました。
不燃樹脂・難燃樹脂の一覧表
樹脂名 | 酸素指数(%) | UL94規格 |
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン) | 95 | V-0 |
PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン) | 95 | V-0 |
PEI(ポリエーテルイミド) | 47 | V-0 |
PPS(ポリフェニレンサルファイド) | 44 | V-0 |
PAI(ポリアミドイミド) | 43 | V-0 |
PVDF(ポリフッ化ビニリデン) | 43 | V-0 |
PPSU(ポリフェニルスルホン) | 38-40 | V-0 |
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) | 38 | V-0 |
PVC(ポリ塩化ビニル) | 28-38 | V-0 |
PAR(ポリアリレート) | 36 | V-0 |
酸素指数が27%以上であれば難燃樹脂といえますが、より燃えにくい素材を探している場合には、上記の表を参考に選定してください。特にPTFEやPCTFEといったフッ素樹脂は、酸素指数が95%と極端に高いため、不燃樹脂としての活用が可能です。
不燃樹脂・難燃樹脂の主な活用用途
不燃樹脂・難燃樹脂は火災リスクを低減し、安全性を向上させるために幅広い分野で活用されています。ここでは、各分野での代表的な用途を紹介します。
建築・建材
- 内装材(壁材、天井材)
- 断熱材
- 配管材料
内装材として使用される不燃樹脂・難燃樹脂は、壁材や天井材に採用され、建物全体の耐火性を向上させます。また、断熱材として利用することもでき、火災時には延焼を防ぐのに役立ちます。さらに、配管材料へ活用し、耐熱性と耐腐食性を兼ね備えた配管システムを構築することも可能です。
電気・電子機器
- 配線被覆材
- プリント基板
- 電子部品のハウジング
- 電子機器のクッション素材
配線被覆材として使用される不燃樹脂・難燃樹脂は、ショートや過熱による火災リスクを低減します。半導体やプリント基板など、耐熱性と難燃性が求められる用途にも最適です。また、電子部品のハウジングに使用されることで、発熱や火災のリスクを最小限に抑え、電子機器の安全性と信頼性を向上させます。
輸送機械
- 自動車の内装材
- 航空機の内装パネル
- 鉄道車両の断熱材・防火素材
- 船舶の内装材
自動車の内装材に使用される不燃樹脂・難燃樹脂は、事故時の火災リスクを低減し、搭乗者の生存可能性を高めます。軽量でありながら高い耐火性を発揮するため、航空機の内装パネル素材としても一般的です。また、鉄道車両の断熱材・防火素材として活用されており、冷暖房の効率性を高めると同時に乗客の安全性向上にも寄与しています。船舶の内装材には、耐水性や耐候性、耐腐食性も備えた難燃樹脂が採用されます。
産業設備
- 工場機械の部品
- 化学プラント設備
- 防火設備(不燃シートなど)
工場内の機械部品として使用される不燃樹脂・難燃樹脂は、機械的強度や耐熱性なども重要です。化学プラントの配管やバルブ、ガスケットに燃えにくい樹脂を活用することで、万一の火災発生時に備えることができます。不燃シートなどの防火設備にも採用されており、産業設備全体の安全性を支えています。
家電・生活用品
- 家電製品の筐体
- 調理器具の部品
- 家具材料
家電製品の筐体などに難燃性の材料を使用する場合、UL94規格のV-0以上が推奨されています。生活用品への不燃樹脂・難燃樹脂の活用は非常に多く、フッ素樹脂のように調理器具での使用も一般的です。不燃樹脂・難燃樹脂がさまざまな家具材料に利用されていることで、家庭内で火災が発生するリスク、もしくは延焼するリスクを低減します。
防護装備
- 防火服
- 消防用具
- 安全ヘルメット
防火服の材料として使用される不燃樹脂・難燃樹脂は、火災に対応する消防士の安全を確保します。防炎加工を施すことで、より高い耐火性能を付与することも可能です。その他の消防用具の材料にも使用され、火災時の作業リスクを大きく抑制します。炎や落下物から頭部を保護する安全ヘルメットの材料には、難燃性と耐衝撃性が高い樹脂が有効です。
樹脂の難燃性を高める方法
樹脂の難燃性を高めるには「難燃剤の添加」「ナノコンポジットの利用」「難燃性を付与する表面処理」といった方法があります。樹脂素材や用途に合わせて適切な手法を選択することにより、難燃性の大幅な向上が可能です。
難燃剤の添加
難燃剤の添加は、樹脂の難燃性を高める方法として最も一般的です。ハロゲン系やリン系、窒素系、シリコーン系、水和金属系化合物などの難燃剤が使用されます。これらの難燃剤を添加することで、不燃性ガスを生成させて延焼を防いだり、燃焼反応を抑制したりすることができます。ただし、ハロゲン系の難燃剤は、焼却時にダイオキシンを発生させることから、使用を避ける傾向にあるのが現状です。
ナノコンポジットの利用
ナノコンポジットとは、ナノサイズの無機物質を含有・分散させた樹脂材料のことです。ナノクレイやカーボンナノチューブを樹脂中に分散させることにより、難燃性の向上を図ります。燃焼時に保護層を形成して樹脂の分解を遅らせ、酸素や熱の供給を遮断します。
また、ナノコンポジットは少量の添加で効果を発揮するため、樹脂の特性への影響を最小限に押さえることが可能です。同時に、ナノクレイやカーボンナノチューブが機械的強度や耐久性を補強するため、樹脂の全体的な性能が向上します。
難燃性を付与する表面処理
難燃性を付与する表面処理も効果的な手法です。樹脂の表面に耐火塗料や難燃性コーティングを施すことで、発火や延焼を防ぎます。例えば、フッ素樹脂コーティングやセラミックコーティングなどにより、可燃性樹脂にも一定の難燃性を付与できます。
表面処理による難燃性付与は、その樹脂本来の特性を維持できるのが利点です。しかし、耐久性や均一性の確保が課題となったり、要求される耐火性能が得られなかったりする場合があります。用途に応じて適切な処理方法を選択することが重要です。