樹脂材料の選定において、誘電率は重要な特性の一つで、材料の電気的特性を理解する上で欠かせない指標です。適切な誘電率を持つ樹脂を選ぶことで、コンデンサや絶縁体などの電子機器部品の性能向上や特定の用途への最適化を可能にします。本記事では、誘電率が高い樹脂と低い樹脂の一覧表を示し、各樹脂の特徴と用途を詳しく解説します。
誘電率とは
誘電率とは、物質がどれだけ電気を蓄えられるか(分極のしやすさ)を示す指標のことです。ここでは、誘電率の定義と基本原理、測定方法を解説します。
誘電率の定義と基本原理
誘電率は電媒定数ともいい、記号には「ε(イプシロン)」を用いるのが一般的です。電束密度をD、電場をEとしたとき、以下の式が成立します。
D=ε E |
誘電率の単位は「F/m(ファラド毎メートル)」です。
また、εはコンデンサの電気容量Cを求める式の比例定数として用いられます。
C = ε Sd |
(平行に向かい合わせた2極板の間隔をd、面積をSとする)
この式から、誘電率が高い材料ほどコンデンサの電気容量が大きくなる(電荷が貯まりやすくなる)ことがわかります。逆に誘電率が低い場合は、絶縁材料に適していることを意味します。ただし、高誘電率の樹脂にも体積抵抗率が高いものがあり、耐熱性や機械的強度が求められる環境においては、優れた絶縁材料として活用可能です。
誘電率は、材料の化学構造や分子の極性、結晶構造などで決定される、物質固有の値です。極性の高い分子を含む材料は一般的に高い誘電率を示し、極性が低い分子からなる材料は低い誘電率を示す傾向があります。
誘電率の測定方法
1MHz以上の周波数帯における誘電率の測定には「共振法」「容量法」「伝送法」が使用されます。これらの方法によって、材料の誘電特性を精密に評価することができます。
- 共振法
試料を共振器内に配置し、共振周波数の変化から誘電率を算出する方法です。1GHz超の高周波領域での測定に適しており、精度の高い結果が得られます。 - 容量法
平行な平板コンデンサ構造を利用し、試料を挟んだ状態での静電容量およびコンダクタンスを測定します。低周波から中周波領域での測定に適していますが、数100MHz以下の高周波領域にも対応できます。 - 伝送法
伝送法は、ネットワークアナライザを用いて材料の誘電特性を測定する方法です。高周波領域での反射特性や透過特性を評価し、誘電率や誘電損失を求めます。広い周波数範囲で高精度な測定が可能で、高損失材料の評価に適しています。
誘電率が高い樹脂
ここでは、高誘電率樹脂を5つ紹介し、それぞれの特徴と用途を解説します。
高誘電率樹脂の一覧表
樹脂名 | 誘電率(106 Hz) |
MF(メラミン樹脂) | 7.2 – 8.4 |
UF(ユリア樹脂) | 6.0 – 8.0 |
PVDF(ポリフッ化ビニリデン) | 6.4 – 7.0 |
PF(フェノール樹脂 / ベークライト) | 4.0 – 7.0 |
UP(不飽和ポリエステル) | 4.5 – 5.5 |
高誘電率樹脂のそれぞれの特徴と用途
高誘電率を持つ樹脂は、電気的特性のほかにも耐熱性や機械的特性に優れており、さまざまな産業で重要な役割を果たしています。以下に、それぞれの樹脂の特徴と用途を紹介します。
MF(メラミン樹脂)
- 特徴
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの縮合重合によって製造される熱硬化性樹脂で、高い誘電率と硬度を持ちます。耐熱性や耐摩耗性、耐水性、耐薬品性にも優れるほか、成形性が良好で表面光沢も美しい樹脂素材です。 - 用途
積層板や成形材料、電気・電子分野の絶縁部品として使用され、その高い耐熱性と硬度を活かして調理器具や食器にも広く利用されています。また、建築分野では内装材や化粧板として、木材加工業界では接着剤やコーティング材に使用されます。
h4:UF(ユリア樹脂)
- 特徴
ユリア樹脂は誘電率と成形性に優れる一方で、比較的安価な素材です。無色透明なため着色も容易です。硬度が高く、有機溶剤への耐性も良好ですが、耐水性はメラミン樹脂に劣ります。 - 用途
成形材料や接着剤として使用され、電気・電子分野では配電盤やスイッチの絶縁部品、家庭用電気製品に広く利用されています。また、その成形性と経済性を活かし、日用品にも使用され、合板や繊維板の接着剤としても有用です。
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
- 特徴
PVDFは高い誘電率と優れた熱安定性、耐薬品性、柔軟性を持ち、加工が容易です。耐候性や耐燃焼性もありますが、一部の薬品(アミン、エステル、ケトンなど)に侵食されます。 - 用途
電線被覆やキャパシタフィルム、建材フィルムとして広く使用されています。優れた耐薬品性と耐熱性を持つため、化学プラントや半導体製造装置の部材、耐食コーティング、耐食ライニングにおいても重要な樹脂素材です。また、釣り糸や食品加工機械部品、医療機器の部品にも利用されています。
PF(フェノール樹脂 / ベークライト)
- 特徴
フェノール樹脂は高い熱硬化性と優れた耐熱性、電気絶縁性を持ちます。耐薬品性や難燃性、高温強度も高く、多様な環境で使用可能です。 - 用途
プリント基板や配線基板、電気モーターのコイル絶縁材、ブレーカーの絶縁部品に使用されています。航空宇宙産業や自動車産業でも、高温環境の電気・電子部品に採用される素材です。また、機械部品のハウジングやケーシングにも利用されています。
UP(不飽和ポリエステル)
- 特徴
不飽和ポリエステルは高い耐アーク性を持った熱硬化性樹脂です。透明性や耐熱性、耐候性にも優れています。ガラス繊維との複合化も容易で、繊維強化プラスチック(FRP)として活用されています。 - 用途
電気特性に優れるため、多くの電気部品に使用されています。ヒューズブレーカーへの活用のほか、モーターやトランスの封止にも利用されます。建築・土木分野では建設資材や防水材に、自動車産業では外装材にも用いられ、幅広い用途のある材料です。
誘電率が低い樹脂
誘電率が低い樹脂は以下の5つで、2.0〜2.5が目安となります。ここでは、低誘電率樹脂のそれぞれの特徴と用途を解説します。
低誘電率樹脂の一覧表
樹脂名 | 誘電率(106 Hz) |
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン) | 2.0 – 2.1 |
PMP(ポリメチルペンテン) | 2.1 – 2.2 |
PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン) | 2.3 – 2.5 |
PE(ポリエチレン) | 2.3 – 2.4 |
PP(ポリプロピレン) | 2.2 – 2.6 |
低誘電率樹脂のそれぞれの特徴と用途
低誘電率を持つ樹脂は、その優れた電気絶縁性を活かし、さまざまな分野で利用されています。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
- 特徴
PTFEは非常に低い誘電率を持ち、耐薬品性や低摩擦性、非粘着性を有します。炭素原子をフッ素原子が完全に覆う分子構造により、化学的安定性と耐熱性においても優秀です。 - 用途
電子機械や精密電子機器部品の絶縁材として利用されるほか、半導体製造プロセスでも重要な役割を果たしています。低摩擦性を活かし、ベアリングや滑り軸受にも適した素材です。さらに、化学産業の配管シールや調理器具の非粘着コーティング、医療用インプラントなどにも使用されています。
PMP(ポリメチルペンテン)
- 特徴
PMPは低い誘電率と高い電気絶縁性を持ちます。非常に硬く、軽量かつ透明で、耐熱性と耐薬品性にも優れるため、幅広い用途に対応できるスーパーエンプラです。 - 用途
電気・電子部品の絶縁材として使用されますが、理化学実験器具や医療用器具、食品容器、耐熱食器といった用途にもよく適しています。
PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)
- 特徴
PCTFEは、PTFEと同じくフッ素樹脂の一つです。低い誘電率以外にも、耐薬品性や耐熱性、耐候性、低吸水性、低摩擦性、非粘着性など多様な特性を有しています。PTFEに比べると耐熱性や耐薬品性で劣りますが、機械的強度では優れています。 - 用途
高性能シール材や特殊な電気絶縁材料、化学プラント設備部品、半導体製造装置部材に採用されています。高いガスバリア性を活かして医薬品や食品のパッケージング材料としても重要です。また、樹脂ベアリングの材料としても活用されます。
PE(ポリエチレン)
- 特徴
PEは代表的な汎用プラスチックで、低誘電率と電気絶縁性が特徴です。耐水性や耐薬品性、耐油性、柔軟性、加工性にも優れています。HDPE(高密度ポリエチレン)やLDPE(低密度ポリエチレン)、UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)といった種類があります。 - 用途
電線被覆材や包装材料として広く使用され、高周波同軸ケーブルの絶縁材料としても重要です。各種の容器類、レジ袋、ゴミ袋、食品包装、医療用包装材、農業用フィルム、建築用防水シートなどに広く利用される一方、リサイクル技術の進歩により環境に配慮した循環型の利用も進んでいます。
PP(ポリプロピレン)
- 特徴
PPも汎用プラスチックの一つであり、絶縁性や耐水性、化学安定性、成形性に優れています。非常に軽量で高い剛性を持ち、衛生的で安価な樹脂材料です。ただし、接着や印刷、塗装には向きません。 - 用途
電子部品としては、フィルムコンデンサ用の誘電体フィルムへの活用があります。自動車産業ではバンパーや内装部品などの材料に有用です。ほかにも、実験器具や化学プラントの部材、産業用資材、繊維材料、食品容器、医療用容器といった幅広い用途で使用されています。