耐熱樹脂の特徴と用途|耐熱性が高い樹脂トップ10

耐熱樹脂は、高温環境下でも優れた性能を維持できるプラスチック材料です。耐熱性が高い樹脂は応用範囲が広く、自動車や電子機器、航空宇宙といったさまざまな産業分野での需要が高まっています。本記事では、耐熱樹脂の特徴や評価指標、耐熱性が高い樹脂トップ10について詳しく解説します。

耐熱樹脂とは

耐熱樹脂とは、高温環境においても優れた機械的強度や寸法安定性を維持できる樹脂材料のことです。一般的なプラスチックと比べて熱による変形や劣化が少なく、高温での連続使用にも耐えられます。例えば、PEEKやPPSなどは、航空宇宙・自動車産業で広く利用される耐熱樹脂です。

樹脂の耐熱性は分子構造や添加剤によって決まり、用途に応じて多くの耐熱樹脂が開発されています。また、樹脂の耐熱性は、熱変形温度や耐熱温度といった指標によって評価することが可能です。

耐熱性を評価する指標

耐熱性能を評価する主な指標には、熱変形温度(HDT)、耐熱温度(連続使用温度)、ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)があります。これらの指標を理解し、各樹脂の熱的特性をより正確に評価することは、適切な樹脂選定に不可欠です。

熱変形温度(HDT)

「熱変形温度(HDT:Heat Deflection Temperature)」は、一定の荷重下で樹脂が変形し始める温度のことで、「荷重たわみ温度」ともいいます。規定の荷重(0.45MPaまたは1.8MPa)をかけた状態で試験片を加熱し、一定量の変形が生じる温度を測定します。製品設計や材料選定の際によく用いられ、樹脂の実用的な耐熱性を評価する上で特に重要な指標です。

耐熱温度(連続使用温度)

「耐熱温度(連続使用温度)」とは、樹脂が長期間にわたって使用される際に耐えられる最高温度のことです。この長期的耐熱性は、UL規格(UL746B)の相対温度指数(RTI)で評価が行われます。この温度を超えない使用環境であれば、樹脂の物理的・化学的特性が大きく変化せず、安定した性能が維持されます。

ガラス転移温度(Tg)

「ガラス転移温度(Tg:Glass Transition Temperature)」とは、樹脂がガラス状の硬く脆い状態から、ゴム状の柔らかい状態に変わる温度のことです。樹脂の物理的性質(弾性率、熱膨張係数など)が大きく変化する温度であり、一般的にはガラス転移温度が高い樹脂は、耐熱性も高いことを示します。

融点(Tm)

樹脂の「融点(Tm:Melting Temperature)」は、結晶性樹脂が固体から液体へと状態変化する温度を指します。ただし、非晶性樹脂に明確な融点はありません。融点を超えると樹脂の結晶構造が崩壊し、流動性を持つようになります。逆に言えば、高融点の樹脂ほど高温下でも形状が維持されやすいことを意味します。

耐熱性が高い樹脂トップ10

熱変形温度と耐熱温度を基にした、耐熱性が高い樹脂トップ10は下表のとおりです。

順位樹脂名熱変形温度(HDT)[℃]耐熱温度(連続使用温度)[℃]
1SI(シリコーン)GF充填>482>316
2PBI(ポリベンゾイミダゾール)435345
3PAI(ポリアミドイミド)275260
4LCP(液晶ポリマー)180 – 355260
5PPS(ポリフェニレンサルファイド)(充填)>260240
6PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)152240
7PPSU(ポリフェニルスルホン)207 – 214180
8PESU(ポリエーテルスルホン)203180
9PET(ポリエチレンテレフタレート)GF30%210 – 227150
10PEI(ポリエーテルイミド)200170

以下、それぞれの樹脂の特徴と用途を解説します。

SI(シリコーン)ガラス繊維強化

SIは、固体だけでなくゴムや液体の状態でも高い耐熱性を持ち、さらにガラス繊維で強化したものは抜群の耐熱性能を誇ります。原子力発電のような過酷な使用条件にも適合し、電気絶縁部品や耐熱成形品のほか、熱伝導シートなどへの活用があります。

PBI(ポリベンゾイミダゾール)

熱変形温度と耐熱温度が樹脂の中でトップクラスであるだけでなく、機械的強度も非常に優れています。半導体や液晶の製造装置部品、高温環境下の電子機器絶縁部品などに用いられます。

h3:PAI(ポリアミドイミド)

優れた機械的特性を持ち、高温環境でも耐クリープ性や耐摩耗性、摺動特性といった性能を発揮します。耐薬品性や耐放射線性も有し、特殊な用途でも使用可能です。半導体製造装置やコンプレッサー、電子部品製造ラインなどで利用されています。

LCP(液晶ポリマー)

薄く成形しても高い機械的強度を維持できる特徴があり、寸法安定性や成形流動性においても優秀な樹脂素材です。電子機器のコネクタ、カメラなどの精密機器部品への用途のほか、航空宇宙や自動車、医療機器など幅広い分野で活用されています。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)充填

PPSの非強化製品は耐衝撃性に劣るため、ガラス繊維や炭素繊維、無機質充填剤によって強化されたものを使用するのが一般的です。プリント基板やIC部品、コネクタ、スイッチといった電子部品のほか、家電や機械、自動車の各種部品に使用されています。

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

耐衝撃性や強靭性、耐薬品性、電気絶縁性など多様な特性に優れています。炭素繊維強化によって、さらに強度と耐熱性を高めることが可能です。半導体製造産業から自動車産業、航空宇宙産業などで広く活用されています。

PPSU(ポリフェニルスルホン)

高い耐熱性だけでなく、耐衝撃性や耐加水分解性、耐薬品性にも優れ、食品衛生法にも適合する樹脂素材です。医療機器や食品容器、調理器具などへの活用が多いですが、難燃性を持つことから航空機の内装にも用いられます。

PESU(ポリエーテルスルホン)

高温環境下でも高い剛性を保持し、耐クリープ性や寸法安定性、耐薬品性といったさまざまな特性を持っています。成形性が良いため、複雑形状の部品にも適した樹脂素材です。自動車や航空機の内装材、電気・電子部品、医療機器部品などに採用されています。

PET(ポリエチレンテレフタレート)ガラス繊維強化

ガラス繊維を配合することで、高い耐熱性を付与することができます。耐寒性や耐薬品性、耐溶剤性などにも優れています。ペットボトルや衣料用繊維が代表的な用途ですが、電気部品や機械部品にも広く使用される樹脂素材です。

PEI(ポリエーテルイミド)

耐熱性、耐熱水性、難燃性といった高温特性を持ち、高い機械的強度や電気的絶縁性、耐放射線性、耐紫外線性も有するスーパーエンプラです。自動車や航空機のエンジン部品から、電気・電子部品、機械部品、医療機器部品などまで、幅広い用途があります。

トップ10以外の耐熱性に優れる樹脂

前項のトップ10には含めませんでしたが、以下の樹脂も熱変形温度や耐熱温度に優れています。耐熱性が高い樹脂の種類は豊富にあるため、耐熱性以外の特性もよく確認して、用途に最適なものを選択しましょう。

  • PA66(66ナイロン)ガラス繊維強化
  • PBT(ポリブチレンテレフタレート)ガラス繊維強化
  • UP(不飽和ポリエステル)ガラス繊維強化
  • PAR(ポリアリレート)
  • MF(メラミン樹脂)
  • PSU(ポリスルホン)
  • PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
COPYRIGHT © 2020 ARAKAWA-GIKEN all rights reserved.