試作から量産までの流れを解説! 製品開発における試作の重要性とは?

新製品を企画・設計してから、製品化が実現するまでには長い期間が必要です。その間、試作品を何個も作って多くの検証をおこないます。優れた機能や卓越したデザインを考案しても、試作段階を経なければ量産化ができず、製品としてリリースすることも不可能です。今回は、試作や量産の意味、両者の違いを踏まえて試作から量産の流れを説明し、試作の重要性を解説します。

試作とは|量産との違い

量産化の成功には試作を入念におこなうことが不可欠です。試作品の出来しだいで製品の売れ行きが変わるといっても過言ではありません。まず試作の重要性を理解するために試作とは何かを説明し、試作と量産の違いについても解説します。

試作とは

試作とは、製品または商品を本格的に製造・販売する前に、試験的に作ってみることを意味します。製品を量産するにあたって、品質や機能、デザイン形状、コストなどを試験・評価をするために必要な工程です。原理試作や機能試作、デザイン試作、量産前試作といった段階を踏み、検証を繰り返して量産化へ移行します。

量産とは

大量生産が可能な段階のことで、MP(Mass Production)ということもあります。量産が可能になって初めて「製品化ができた」といえます。量産では製品の企画意図や試作時の思想が製造現場にも反映されていることが重要です。設計者自身でQC工程書や作業標準書、治具をチェックして、製品の質が満足できるものであることを確認します。

試作と量産の違い

試作の段階で、量産品と同じ工法や材料を用いるのは現実的ではありません。設計にも差異があります。以下、試作と量産の違いを説明します。

工法

量産で用いる金型は鋼材で作られる高額なものです。試作のたびに金型を作成するとコストと時間が非常にかかるため、簡易的な工法を用います。試作時に採用される代表的な工法は切削加工や簡易な射出成形、真空注型、3Dプリンターです。

設計

試作品で可能な金型形状でも、量産には適さないことがあります。試作で複雑な形状の金型を作っても、大量生産でも品質を維持できるとは限らないからです。量産に使用する射出成形の金型には、数万回から数百万回にわたって高い圧力がかけられるため、その負荷に耐えられる金型の設計が必要です。

材料

デザイン試作では紙や粘土、プラスチック、ケミカルウッドなどの加工しやすい素材で製作することが一般的です。真空注型や3Dプリンターで試作する際も、製品と同じ材料が使えないケースが多いでしょう。

コスト

製造コストは生産ロット数で単価が変わります。試作品は生産数が少ないため、1個あたりのコストは高くなりやすいです。試作コストを抑えながらも検証を十分におこない、量産時のコストダウンを図りたいものです。

プラスチック材料 コストダウン

試作から量産までの流れ

製品を企画してから市場へリリースするには、複数の試作段階を経て量産化に成功する必要があります。量産化の難易度が高い製品なら、試作の各フェーズを何度か繰り返すケースもあるでしょう。シミュレーションツールを活用して試作回数を減らすことも可能です。

試作から量産までの流れは次のとおりです。

1)原理試作:製品の機能や性能を限定して試作

機能を限定して設計し、原理試作品を製作して検証します。

2)機能試作:仕様に沿った機能・性能を持たせて大量生産が可能か確認する試作

大量生産を意識して設計した機能試作品でテストをおこないます。

3)デザイン試作:市場ニーズや使いやすさに応えるデザインを決定する試作

平面で起こされたデザインを立体化し、製品化が可能か検証します。

4)量産試作:原理試作・機能性試作・デザイン試作を反映した量産を実現するための試作

量産品に採用される製品設計をおこない、量産試作として少量生産で検証をします。

5)量産

量産化が実現したら、発注部品や製品の数量、納期の調整、販売経路の確保などが必要です。

試作の重要性|原理試作・機能試作・デザイン試作・量産試作

試作のフェーズが原理試作や機能試作、デザイン試作、量産試作というように細かく分けられていることからも、その重要性が理解できます。量産に至るまでにはクリアすべき課題が多いため、試作の各フェーズで問題点を洗い出して一つひとつ丁寧に検証・改善していくことが必要です。ここでは試作の重要性をより深く理解するために、それぞれの試作段階を詳しく解説します。

原理試作

原理試作は、機能や性能を限定して実際に製品の原型を作る試作工程です。原理試作によってPoC(Proof of Concept:概念実証)をおこない、投資判断を誤らないようにします。開発段階における不確実性の発見やリスク回避も可能です。

原理試作として初期の要件定義書、仕様書、図面、スケジュールを準備し、試作品を製作します。想定している機能の実現やプロダクトの市場価値といった品質面を確認・評価し、改善を進めていきます。

機能試作

機能試作では大量生産を意識した試作品を作り、仕様に沿った性能を発揮できるか検証します。部品同士の干渉や信号の整合性を検証するEVT(Engineering Validation Test:技術検証試験)に位置づけられる試作工程です。EVTをクリアしたら、DVT(Design Validation Test:設計検証試験)、PVT(Process Validation Test:生産検証試験)へと順に進めていきます。

DVTでは、品質試験や規格検証、許認可のプレ試験などを実施します。製品の機能と性能を確認します。量産化をおこなうための部品や工場、方法まで確定させるため、DVTには時間とコストが多くかかることを見込んでおかなければなりません。

PVTは量産品(実際の製品)とほぼ同様の試作品を製作する最終段階です。許認可を取得するとともに、PVTでの検証を元に量産を開始するか判断します。製品寿命や機能および性能、操作性などまでテストします。

デザイン試作

デザイン試作では、機能試作で検証された製品の外観に好ましいデザインを検討します。「インダストリアルデザイン」や「プロダクトデザイン」と呼ばれる試作工程です。必要な部品が全て収められるのは大前提ですが、同時に市場ニーズや使い勝手も考慮したデザインであることが重要です。デザイン試作は人間工学や使用環境などに基づいて進められるため、しばしば原理試作や機能試作の方針とぶつかることもあります。

近年は3Dプリンターの活用も進み、デザイン試作の自由度は上がってきたといえるでしょう。しかし、デザイン試作で採用した形状が量産化に向かないケースはよくあります。複数の形状を製作し、その中から量産可能なデザインを選ぶのが効率的かもしれません。修正をおこなう場合も、製品コンセプトと矛盾しないようデザインの軸を外さないことが大切です。

量産試作

量産試作はPP(Pre-Production)ともいい、PVTを経た試作品を少量生産する試作工程です。素材や部品は量産品と採用するものと同じにして、50~100台程度を生産してみます。量産個数が多い場合は、金型を作製してコストダウンを図ることも必要です。その際に不良率がどの程度あるのかも検証し、問題があれば設計の修正をおこないます。量産を決定するために重要な最終フェーズです。

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