耐摩耗性樹脂は、摩耗が発生する使用状況に長期間耐えられる特性を持つ樹脂です。産業機械や自動車部品、食品加工機器など幅広い分野で利用されており、部品の寿命を延ばし、保守コストの削減に寄与します。この記事では、耐摩耗性樹脂の概要や高い耐摩耗性を備える樹脂の種類、各産業分野での具体的な用途について詳しく解説します。
耐摩耗性とは
耐摩耗性とは、材料が使用中に発生する摩擦や摩耗に対して耐えられる性能を指します。耐摩耗性の高い材料を使うことで、部品の寿命を延ばし、メンテナンスの頻度を減らすことが可能です。高出力の稼働でも長期にわたって性能を維持することができ、産業機器や自動車部品など、頻繁に動作する機器の安定運用に貢献します。
耐摩耗性が求められる理由
摩擦が頻繁に発生する環境下では、部品が摩耗して機能低下や寿命短縮を引き起こします。放置すれば機械が故障したり、安全性を著しく損なったりするリスクがあります。耐摩耗性の高い樹脂を用いることで、パーツ交換やメンテナンスの手間を削減し、長期間の安定稼働が実現可能です。また、摩耗による粉塵の発生や異物混入を防ぐことで、製品の品質や安全性を維持する役割もあります。結果として、コストの抑制や生産性の向上につながります。
耐摩耗性の評価基準と試験方法
耐摩耗性の評価は、摩耗試験における摩耗量や摩擦係数の測定に基づきます。摩耗試験は、ISOやJIS、ASTMの基準に従っておこなわれるのが一般的です。摩擦面に一定の負荷を加え、摩耗量を計測します。また、回転や往復運動による摩擦試験も行われ、実際の使用環境に近い条件での耐久性を確認します。耐摩耗性を適切な試験で評価することにより、製品の品質と信頼性を保証することが可能です。
耐摩耗性が高い樹脂
耐摩耗性の高い樹脂は、機械部品や産業用装置の耐久性を向上させるために重要です。代表的な樹脂には、HDPE、UHMW-PE、MCナイロン、PA6があります。また、PEEKとPAIの摺動グレードのように、樹脂素材によっては耐摩耗性が強化されたグレードも存在します。
HDPE(高密度ポリエチレン)
HDPE(高密度ポリエチレン)は、耐摩耗性と耐衝撃性に優れ、低コストで加工しやすい樹脂です。耐薬品性や耐湿性も高いため、食品加工機器やパイプ、容器類など幅広い用途で利用されています。HDPEの摩擦係数は低いため、搬送装置やコンベアのガイドレール、魚網、船舶用ロープなど、スムーズな滑りが求められる用途にも適しています。また、耐寒性や耐腐食性もあり、応用範囲が非常に広い汎用プラスチックです。
UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)
UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)は、通常のポリエチレンよりも非常に高い耐摩耗性と耐衝撃性を持っているのが特徴です。自己潤滑性と摺動特性にも優れており、搬送装置のガイドや摺動部材、ギア、シール材など、摩擦や衝撃に耐えることが求められる用途に適しています。また、耐薬品性と耐水性も高いため、食品加工や医療分野でも活躍する樹脂素材です。
PA6(6ナイロン)
PA6(6ナイロン)は、耐摩耗性と耐衝撃性のバランスが良く、多くの産業用部品に用いられています。機械強度と耐久性を活かし、自動車部品や電気・電子機器部品などでの需要が高いです。耐薬品性と耐油性にも優れるため、油や化学薬品に接触する部品にも使用できます。軽量でコストパフォーマンスが高く、加工もしやすいことから、多くの業界・分野で重宝されているエンジニアリングプラスチックです。
MC901/MC900NC/MC801/MC703HL(MCナイロン)
MCナイロンは、PA6を基に製造された耐摩耗性に優れた樹脂です。MC901とMC900は基本グレードとして一般的な工業用途に使用され、安定した機械的特性が特徴です。食品衛生法のポジティブリストに含まれており、食品加工分野でも採用されています。MC801は耐候グレード、MC703HLは摺動グレードとなっており、要件に応じた選択が可能です。
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)摺動グレード
PEEKの摺動グレードは、極めて高い耐摩耗性と耐熱性を備えた高性能樹脂です。250℃の高温に耐えるため、熱の影響が大きい環境下での使用に適しています。さらに、強力な耐薬品性と低摩擦性も兼ね備え、自動車部品や産業機器、半導体製造装置の摺動部材などに有用です。PEEKは金属代替材としても利用されるスーパーエンプラであり、軽量化や耐久性向上のためにさまざまな分野で需要が高まっています。
PAI(ポリアミドイミド)摺動グレード
PAI摺動グレードは非常に高い耐摩耗性と耐熱性を持ち、機械的強度と耐衝撃性にも優れるため、過酷な環境での耐久性を求められる部品に最適な樹脂です。約275℃までの高温に耐えられる上に寸法安定性も高いため、精密機器や産業用機械の摺動部品に適しています。耐薬品性や耐放射線性も備えており、特殊な条件下での使用にも耐える高性能樹脂です。
耐摩耗性樹脂の活用用途
耐摩耗性樹脂は、幅広い業界での用途があります。ここでは、産業機械、自動車部品、医療機器、食品加工、建築・インフラといった、各分野での活用例を紹介します。
産業機械
産業機械の分野では、耐摩耗性樹脂が多くの部品に利用されています。特に、ギアやベアリング、ブッシュ、スライドガイドなど、摩擦や衝撃が頻繁に加わる部分に使用され、機械寿命の延長に役立っています。UHMW-PEやMCナイロンなどは摩擦係数が低く、高耐摩耗性を備えているため、稼働率の高い機械の安定した運用に貢献します。部品が破損しにくいことからメンテナンスの頻度が減少し、コスト削減にもつながります。
自動車部品
自動車業界では、車体の軽量化を図るために樹脂素材の活用が進められており、耐摩耗性樹脂も多くの部品に採用されています。トランスミッション周りの部品、ギア、シール材、ベアリング、内装部品などで使用され、車両の軽量化と耐久性向上を実現するのに不可欠です。耐熱性も高い耐摩耗性樹脂であれば、高温環境となるエンジン部品としても安定した性能を発揮します。
医療機器
医療機器の分野でも、耐摩耗性樹脂は多くの場面で使用されています。例えば、手術器具や人工関節の一部など摩耗が起こりやすい部品に用いられ、耐久性と安全性を確保します。特にUHMW-PEは生体適合性が高く、人工関節や整形外科用インプラントなど人体に接触する部品に適した素材です。また、PEEKは耐摩耗性と耐衝撃性に優れるため、金属製人工骨の代替に使用されます。
食品加工
食品加工の分野では、食品に直接触れる部分や金属部品と接触する箇所に耐摩耗性樹脂が使用されています。例えばUHMW-PEやHDPEは、搬送装置やコンベアベルトのガイドに適用されるプラスチックです。これらは部品の摩耗や破損が起きにくく、樹脂粉末などの異物混入を防ぐことができます。また、耐摩耗性と低摩擦性に優れるPA6やMCナイロンなども食品機器の部品として多く利用されています。
建築・インフラ
建築・インフラ分野では、長期にわたり耐久性が必要とされる部品に耐摩耗性樹脂が活用されています。HDPEは金属フェンスのコーティングなどに使用され、部材の寿命を延ばし、メンテナンスコストの削減に役立っています。MCナイロンは耐候性も高く、屋外で長期的な耐久性が求められる用途に最適です。