樹脂加飾は、製品の外観や機能性を高めるための重要な技術です。あらゆる分野のメーカーが、品質やデザインの向上、またはブランドイメージの強化を図るために、さまざまな加飾手法を活用しています。今回は、樹脂加飾の種類から、加飾のメリット・デメリット、技術動向と今後の展望まで解説します。
加飾とは
加飾とは、さまざまな工芸技法を用いて器物の表面に装飾を加えることで、古くからある加工技術です。現代における樹脂・プラスチック製品においても、加飾は重要な役割を果たしています。加飾には、樹脂を成形するのと同時におこなう「一次加飾」と、成形後におこなう「二次加飾」があります。
樹脂に加飾をおこなう理由
樹脂は軽量で、形状の自由度が高い素材です。多くの金属と違い、錆びたり腐ったりしない上に、電気絶縁性や断熱性にも優れています。しかし、金属やセラミック、木材などのほかの素材と比較すると、消費者にチープな印象を与えやすい側面もあります。
特に近年では、機能や性能だけでなく見た目やブランド力なども、消費者の購買基準として重視される傾向が増してきました。そこで、樹脂製品に加飾を施すことにより、商品の競争力を高めるアプローチが重視されるようになってきています。加飾によって素材の見た目や質感を向上、あるいは変更することで、商品力を高めたり他社との差別化を図ったりするメリットがあるからです。
ただし、加飾をおこなえば必然的にコストアップとなるため、それ以上の付加価値が見込めるかどうかをよく検討する必要があります。
樹脂加飾の種類
ここでは、代表的な樹脂加飾の種類を紹介します。
塗装
塗装では、樹脂製品の表面に塗料を塗ることで製品の印象を大きく変えられます。さらに、美観の向上や機能の追加、表面の保護が可能です。
塗装には以下のような方法があります。
- 金属調塗装
メタリック塗料によって金属表面のような風合いを表現します。アルミニウム粒子を使用した塗料がポピュラーですが、クロムめっきに近い高輝度の効果を出せるものもあります。 - ソフトフィール塗装
特殊な塗料を用いて、塗装表面に柔らかさやしっとりとした感触を持たせることができます。 - インクジェット塗装
インクを吹き付け塗布する方法で、高精度な塗り分けも可能です。 - 金型内塗装
射出成形の工程において、金型内で無溶剤の塗料を硬化させて塗装します。
金属薄膜
金属薄膜とは、樹脂製品の表面に金属や金属酸化物の薄膜を形成する技術を指します。製品に金属光沢を付与し、高級感を演出することができます。
- メッキ
メッキは金属薄膜を形成する代表的な方法です。メッキとは、物体の表面に金属膜を形成する技術で、元々は金属の表面加工として施されることが多かったのですが、近年では樹脂製品にも活用されるようになりました。特にABS樹脂は、プラスチックメッキの主要な対象素材です。メッキによって耐食性を付与すると同時に、装飾性も高められます。光沢の調整、つや消しにも対応できるため、多彩な表現方法が可能です。 - 真空蒸着
真空蒸着は金属を加熱することで、樹脂表面に蒸発した金属粒子を付着させる技術です。真空蒸着メッキとも呼ばれ、カラーリングもおこなえます。 - スパッタリング
スパッタリングでは、イオンを衝突させて飛び出した金属粒子が表面に付着して薄膜を形成します。膜の形成のしかたによって、電磁波を通過させたり、光の透過率・反射率を変えたりすることができます。 - 銀鏡塗装
樹脂の表面で銀鏡反応を起こし、銀ナノ粒子層を析出させて薄膜をつくる方法です。銀鏡塗装には、加工する製品サイズに制約がないというメリットがあります。
フィルム・シート
二次元のフィルムやシートを使用した樹脂加飾の技法もあります。大別すると「貼り合わせ」と「転写」の2種類です。
フィルム・シートを貼り合わせる加飾
- フィルムインサート成形
デザインや柄が印刷された熱可塑性樹脂フィルムやシートを金型に挿入する方法です。これに溶けた樹脂材料を加圧して流し込み、冷却することで一体化した製品を作り出します。複雑な形状でも利用可能です。 - TOM成形
基材の表面に特殊なフィルムを三次元的に貼り合わせることで、意匠性だけでなく、防水や防汚などの機能性も高める技術です。フィルムをそのまま貼り付けるため、フィルムの質感や触感を反映させられます。
フィルム・シートを転写する加飾
- フィルムインモールド成形(金型内転写)
デザインや柄が印刷されたフィルムやシートを金型にはさみ、樹脂を流し込むことで、射出成形の熱と圧力により、成形と同時にデザインを転写する技術です。フィルムインサート成形と違って予備成形は不要ですが、インク部分のみが転写されるため意匠が剥がれるおそれがあります。 - ホットスタンプ(箔転写)
金属箔やインクを印刷する技術です。熱と圧力を利用して製品の表面に押し付け、意匠を転写します。 - 水圧転写
インクを塗布したフィルムを水面に浮かべ、その上から製品を水中に沈める方法です。沈める際にかかる水圧を利用して、製品にデザインを転写します。
NSD(Non Skin Decoration)
近年では、塗装やフィルムなどで特別な表面層を付与せずに、表面外観を向上させる加飾技術が広がっています。これをNSDと呼んでいます。
- 着色加飾
通常の着色材によるほか、高意匠性着色材、成形品の染色、構造色発色などの着色方法があります。また、マルチコンポーネント成形や混色成形は、着色と成形技術を組合せたものです。 - テクスチャ加飾
テクスチャ加飾は樹脂表面に特殊な加工を施すことにより、質感や感触を付与する方法です。代表的な方法がシボ加工で、「エッチングシボ」や「デジタルシボ」があります。「ファインブラスト」によってシボムラの修正や防眩交換の付与をおこなうケースもあります。 - 金型表面高品位転写成形(HQT)
金型表面を成形品にそのまま転写させる加飾方法です。金型内に射出充填された溶融樹脂の固化を遅らせて粘度レベルを維持することで、金型のシボをほぼ忠実に転写させた成形品が得られます。
二色成形
異なる2種類の熱可塑性樹脂を一体化させて成形する方法です。ダブルモールドともいいます。たとえば、シボを施した樹脂の上に、別の透明な樹脂を重ねるといったデザインが可能です。
成形機には2本のノズル・シリンダーが設けられており、それぞれから金型内に異なる素材を射出充填することで、多様な樹脂材料を組み合わせることができます。ただし、材料同士の相性があることに留意しなければなりません。相性の悪い樹脂を組み合わせると融着不足になる場合があります。
樹脂加飾の技術動向と今後の展望
従来の加飾は、その多くが見た目の美しさを追求するだけでしたが、近年では機能性を追加することに重点が置かれています。たとえば、抗菌性や撥水性、柔軟性などです。製品によっては、帯電防止や指紋付着防止といった機能を付与することもあるでしょう。
また、環境負荷や作業性の課題を解決するために、塗装やメッキに代わる新しい加飾技術への転換も模索されています。NSDや二色成形は、その代表例といえるでしょう。また、現在はフィルム加飾が主流となっていますが、コスト面を考慮すると別の加飾技術を併用することも検討すべきかもしれません。
このような樹脂加飾の技術的な進展は、各業界の製品開発に反映されています。自動車業界では内装デザインの進化が顕著です。今後、液晶パネルの搭載が一般的になれば、より近未来的な意匠やシームレスデザインを施した部品の需要が高まっていくでしょう。
以上のように、加飾技術の進化はさまざまな産業に影響をもたらす要因となっており、これからの展開が非常に注目されています。