樹脂の切削条件とは? 切削速度・切込み量・送り量に注意しよう

樹脂切削は寸法精度に優れ、ほとんどの樹脂材料に適用できる加工方法です。しかし、高品質に仕上げるには切削条件をよく見極める必要があります。今回は旋盤加工とフライス加工における樹脂の切削条件をそれぞれ説明し、切削条件を最適化する利点についても解説します。

樹脂を旋盤加工する際の切削条件

旋盤とはワーク(被削材)を回転させながらバイト(工具)を当てて切削する機械です。円筒形の加工に特に適していますが、穴あけ加工やねじ切り加工、テーパー加工をおこなうこともできます。ここでは、旋盤加工の切削条件である「切削速度」「切り込み量」「送り量」「切削時間」について説明します。
樹脂旋盤加工

切削速度(周速度)

旋盤の切削速度とは、1分間でバイトがワークを削る距離(m/min)のことです。素材が回転して描く円周の長さと主軸の回転速度(1分あたりの回転数)を乗じて算出します。素材直径の単位が[mm]なので、最後に1000で割って[m]に変換します。

切削速度(m/min)= 3.14 × 素材直径(mm)× 主軸回転速度(min-1)÷ 1000

加工精度や加工面のなめらかさに大きく影響する要素で、一般的には切削速度を大きくするほど加工時間が短縮されます。ただし、それだけバイトにかかる負荷が大きくなることにも留意しなければなりません。また、切粉もたまりやすくなるので、ワークやバイトに絡まないよう適切に排出しながら作業をする必要があります。

切り込み量

切り込み量はバイトがワークに切り込む深さ(mm)を表し、バイトがワークに接する面積で決まります。切り込み量を大きくすれば単位時間当たりの切削量が増えるため、加工時間の短縮に有効です。しかし、加工精度の低下や工具の劣化を引き起こしたり、ビビリ(ワークの振動現象)が発生したりする可能性も出てきます。素材特性や使用工具に応じて、最適な切り込み量を見つけることが重要です。

送り量

送り量は、バイトが主軸1回転でどれだけ移動するかを表す値です。

送り量(mm/rev)= 1分あたりの切削長さ(mm/min)÷ 主軸回転速度(min-1

切り込み量と同様に、送り量を大きくすると加工時間を削減できます。その代わり加工面が粗削りになりやすく、工具寿命にも影響が出るおそれがあります。作業効率と加工品質のバランスがとれる送り量を設定しましょう。

切削時間

旋盤加工における切削時間(min)は、被削材の長さ(mm)を1分あたりの切削長さ(mm/min)で割ることで算出できます。

切削時間(min) = 被削材の長さ(mm)÷ 1分間あたりの切削長さ(mm/min)

また、1分間あたりの切削長さを求めるには、送り量(mm/rev)と主軸回転速度(min-1)を掛け合わせて求めます。

1分あたりの切削長さ(mm/min)= 送り量(mm/rev)× 主軸回転速度(min-1

樹脂をフライス加工する際の切削条件

フライス加工は、フライス工具やエンドミルを回転させてワークを切削する加工法です。さまざまな加工形状に対応でき、精密部品も美しく仕上げられます。ここでは、正面フライス加工の切削条件について説明します。
樹脂切削加工フライス

切削速度(周速度)

フライスの切削速度は工具刃先の周速度と一致し、主軸回転速度と工具の外径から求められます。

切削速度(m/min)= 3.14 × 工具外径(mm)× 主軸回転速度(min-1)÷ 1000

例えば、フライス外径がφ120mm、主軸回転速度が400min-1の場合、

 3.14 × 120 × 400 ÷ 1000 = 150.72

となり、切削速度は150.7(m/min)と計算できます。

1刃あたりの送り量

フライス1刃あたりの送り量は、テーブル送り速度と刃数、主軸回転速度で求めることができます。荒加工では大きく、仕上げ加工では小さく設定するのが一般的です。

1刃あたりの送り量(mm/t.)

= テーブル送り速度(mm/min)÷(刃数 × 主軸回転速度(min-1))

工具メーカーが提供している推奨切削条件表に、各素材における「1刃あたりの標準送り量」が示されているので、それらの数値を参考に設定するとよいでしょう。

テーブル送り速度

テーブル送り速度は、1分間あたりにワークが移動する距離を表します。フライス1刃あたりの送り量と刃数、主軸回転速度から求める計算式は次のとおりです。

テーブル送り速度(mm/min)

= 1刃あたりの送り量(mm/t.)× 刃数 × 主軸回転速度(min-1

切削時間

フライス加工による切削時間(min)は、テーブル総送りの長さをテーブル送り速度で割ることで求められます。テーブル総送りの長さとは、被削材の長さとフライス直径の和のことです。

切削時間(min) = テーブル総送りの長さ(mm)÷ テーブル送り速度(mm/min)

テーブル送り速度を上げるほど切削時間を短縮できますが、加工精度や仕上がりのきれいさが保てる範囲で調整するようにしましょう。

切削条件を最適化する利点

樹脂の切削加工では、加工精度や作業効率を高めるために切削条件を適切に設定することが極めて重要です。切削条件の最適化には、「工具寿命を延ばす」「加工時間が短縮できる」「仕上がりに差が出る」という3つの利点があるため、生産性向上やコスト削減に役立ちます。ここでは、切削条件を最適化する3つの利点について、それぞれ詳しく解説します。

工具寿命を延ばす

特に樹脂加工の場合は、切削条件しだいで工具にかかる負担が大きく変わります。不適切な条件で作業すると工具の摩耗が一段と早まってしまいます。場合によっては刃が欠けるトラブルも発生するかもしれません。

回転数や送り速度、切り込み量といった切削条件を最適化すれば、一定の加工精度を維持しながら切削工具への負荷をコントロールできます。結果的に工具寿命を延ばせるため、交換作業の手間が減って工具コスト自体も削減可能です。

加工時間が短縮できる

切削条件の最適化は、加工時間の短縮にもつながります。必要な削りの深さや形状を得るために複数回の切削工程をかけていた加工作業が、切削条件の見直しによって一度の切削で済ませられることもあります。大量生産をおこなう場合や、短納期で加工しなければならない場合には、切削条件の最適化による時間短縮は非常に有効です。また、加工時間の短縮は作業効率の改善に直結するため、生産性の向上や人件費の削減などを図ることもできます。

仕上がりに差が出る

樹脂切削加工では、切削条件が加工品の仕上がりを左右するケースが多々あります。樹脂素材ごとに適切な切削条件を見極められれば、精密加工も実現できるようになり、表面の仕上がりをより滑らかにすることも容易です。

切削条件の影響が大きい仕上がりの例としては、アクリル樹脂の透明性が挙げられます。切削条件が不適切だとヘーズ(曇度合い)が大きくなり、研磨や薬品、熱による表面処理が必要になります。主軸回転速度を5000回転以下にするといった調整で透明性への影響を抑えることが可能です。

樹脂加工に慣れていない加工業者では素材に合った切削条件がわからず、加工面に傷が生じたり形状が不均一になったりする可能性があります。このような不具合を防ぐためにも、樹脂切削の経験が豊富な加工業者に依頼することをおすすめします。

→荒川技研に樹脂切削の相談をしてみる

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