ガラス入り樹脂は軽さと強度を兼ね備えた製品素材です。さまざまな特性にも優れていながら比較的安価なため、工業製品や住宅設備、自動車部品など幅広く利用されています。この記事では、ガラス入り樹脂の特性やメリット・デメリット、主な用途を紹介し、切削加工をするときの注意点についても解説します。
ガラス入り樹脂とは
プラスチックにガラス繊維を混合したものが「ガラス入り樹脂」です。ガラス繊維をポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などで固めたもので、「ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)」ともいいます。ガラス繊維を添加することにより強度を向上させた樹脂素材です。ガラス入り樹脂の名称には「GF」が付けられ、たとえばガラス繊維強化ポリアミドなら「PA66 GF30」や「PA6 GF30」のように表記されます。「GF30」はガラス繊維の配合率が30%であることを意味します。
ガラス入り樹脂切削加工サンプル
ガラス入り樹脂を切削加工するときの注意点
ガラス入り樹脂を切削加工することも可能ですが、注意点がいくつかあります。ここでは、ガラス入り樹脂の加工で押さえるべきポイントを紹介します。
専用の切削工具を用意する
強度の高いガラス入り樹脂は、一般的な切削工具だけで加工するのは難しいです。専用のエンドミルやルーターを使って切削加工をおこないましょう。
反りの発生を防止する
ガラス繊維の向きには偏りがあり、反りの原因になることがあります。アニール処理で残留応力を減らす、適切な方向から切削する、熱発生を抑える(冷却する)、といった対策が必要です。
切削条件を見極める
ガラス入り樹脂の加工はドライ加工が基本です。ただし、使用する工具のメーカーによって、推奨する切削条件は異なります。また、どんな仕上がりを目指すかも考慮して条件を決めるには、熟練のスキルが求められます。
ガラス入り樹脂の特性
ガラス入り樹脂の代表的な特性は以下のとおりです。
機械特性
一般的に、ガラス入り樹脂は軽くて丈夫であると評価されています。ガラス入り樹脂の比強度は6.0で、アルミ合金(1.7)やチタン合金(2.1)の3倍前後です。比強度とは密度に対する引張強度の値で、比強度が高くなるほど軽量で強靭な物質であることを示します。ガラス繊維の割合(GF充填率)を増やせば強度を高められますが、成形性は損なわれます。
耐食性
酸化が起こらないため、金属のようにサビが発生しません。通常の使用では高い耐食性を発揮しますが、酸環境や温水環境では強度低下が引き起こされる場合があります。
耐候性
ガラス繊維は太陽光などの自然環境にさらされても、その強度は変化しないと考えられています。したがって、ガラス入り樹脂は屋外での長期使用が可能です。
耐薬品性
ガラス繊維は薬品の影響を受けにくいため、化学工場のタンクや床材にガラス入り樹脂を使用するケースがあります。酸やアルカリへの耐性も持っています。
耐水性
水中の使用にも長期間耐えられることから、プールや桟橋、浄化槽に使用されています。家屋の雨漏り対策としておこなわれる「FRP防水」も、ガラス入り樹脂を用いた施工技術です。
電気絶縁性・電波透過性
ガラス入り樹脂の比抵抗(Ω・cm)は1010~1015で、電気を通しにくいです。また、構造強度がありながら、電波をよく通します。
透光性
繊維強化プラスチックの中でも、ガラス入り樹脂は透光性が高いです。採光板、波板など、光を通して、かつ、軽さと強度が求められる用途にも適しています。
減衰特性
減衰とは振動エネルギーを吸収して、揺れを弱める働きのことです。ガラス入り樹脂の減衰特性は代表的な金属より高く、振動による割れや強度低下も抑えられます。
加工性
ガラス入り樹脂は液状のマトリックス樹脂に柔軟なガラス繊維を混ぜて製造します。一体成形がしやすく寸法安定性も向上するため、自由度の高い製品設計が可能です。
ガラス入り樹脂のメリット・デメリット
ガラス入り樹脂のメリットとデメリットは次のとおりです。
ガラス入り樹脂のメリット
軽量化と高強度化を両立できる
比強度が高いことからもわかるように、ガラス入り樹脂は軽くて丈夫です。耐衝撃性や減衰特性も持つため、構造材料として非常に優れています。
複雑な形状も作れる
加工性に優れるガラス入り樹脂には、ハンドレイアップ法やスプレーアップ法など、成形方法が豊富です。複雑な形状でも一次加工段階で一体成形ができるため、二次加工にかかる労力を減らせます。
製品の外観を向上させる
なめらかな曲面を成形できるため、造形性の高い製品を作ることができます。見た目の美しさだけでなく、肌触りの良さがあるのもガラス入り樹脂の特長です。
耐久性を高めてメンテナンスの手間を省ける
ガラス入り樹脂が持つ耐食性や耐候性、耐薬品性、耐水性により、製品の耐久性を高めます。長期使用でも破損しづらく、強度を保持します。メンテナンスの手間が少ない上に、修理や補修も比較的容易です。
ガラス入り樹脂のデメリット
成形機への負担が大きい
ガラス入り樹脂は成形しやすいのですが、成形機のスクリューやシリンダーを消耗させます。硬度の高いガラス繊維が、スクリューやシリンダーの部品をどんどんすり減らすためです。ガラス繊維の割合が高いほど、部品交換のコストがかかってしまいます。
強度と成形性がトレードオフである
ガラス繊維を多く混ぜると強度は向上しますが、成形性が低下します。成形機の消耗やバリの発生を抑えるため、一般的なガラス繊維の配合割合は5~40%程度です。
廃棄とリサイクルに難がある
ガラス入り樹脂の廃棄処理には少なくないコストがかかります。ガラス入り樹脂は熱硬化性樹脂(不飽和ポリエステル樹脂など)を用いるため、もとの原料に戻すことは基本的に不可能です。有効な再利用方法としてケミカルリサイクルの研究が進められていますが、まだ実用には至っていません。
摺動用途に不向きである
硬度が高いガラス繊維は、ほかの素材に接触すると相手材を摩耗させるおそれがあります。なるべく摺動部分への利用は避けたほうがよいでしょう。
ガラス入り樹脂の主な用途
ガラス入り樹脂は、主に以下のような用途で使われています。
鉄道 自動車 船舶 航空機 特殊ハウジング 建築資材 水槽 タンク パイプ | 風力発電ブレード バスタブ 保冷車 保冷コンテナ MRI・CTカバー レドーム プリント基板 シールドモーター 人工滝 | 遊具 サーフボード 釣りざお 弓 スキー板 採光板 波板 保安帽 防弾板 |
荒川技研では66ナイロン・6ナイロンの切削加工が得意
プラスチック試作品の切削加工を主業務とし、66ナイロンや6ナイロンなどのエンプラの切削加工を長年行ってまいりました。
ガラス入り樹脂の切削加工には汎用品とは違う細かい切削加工技術が必要になってきます。そのため、あまり切削経験の少ない加工業者では要望にあった加工精度が出せない場合があります。
弊社ではその66ナイロン等のガラス入り樹脂を以前からご依頼頂くケースが多かったため、その切削加工ノウハウを蓄積することが出来ております。66ナイロン、6ナイロン等のガラス入り樹脂の切削はぜひ荒川技研にご相談下さい。