プラスチックが寸法変化する要因
プラスチックは金属に比べて寸法変化を起こしやすい材料です。寸法変化を起こしやすいプラスチックの性質をよく知っていなければ、他の部品と組み合わせる際に穴位置が合わないなんてことになりかねません。
プラスチックの寸法変化の対策について見る前に、どのような原因でプラスチック製品の寸法変化が起こるのかについて見ていきましょう。
主な要因は下記の3つです。
- 熱による膨張と収縮
- 吸水・乾燥による膨張と収縮
- 残留応力による歪み
熱による膨張と収縮
プラスチックは熱による膨張と収縮が大きい材質です。金属に比べるとプラスチックの熱膨張係数は非常に高くなっており、金属よりも熱膨張係数は1桁多くなっています。
2mほどのプラスチックのレールの例で見ると、真冬と真夏の温度差で数ミリ程度の寸法変化があります。真冬に寸法がぴったりと合っていても夏になると膨張して寸法がずれてしまうこともあるのです。日差しの強い日に、パキパキとプラスチックの屋根材が音を立てているのも、熱膨張が原因となっています。
また、射出成形などの成形加工では、高温で樹脂を溶かしますが、型に流し込んで冷却した際に厚肉部と薄肉部で収縮量の差が発生します。そして厚肉部だけが大きく収縮してしまい、凹みとなって現れます。この凹みを「ヒケ」と呼んでいます。
金型の設計は、使用するプラスチック材料の熱収縮量を計算に入れた上で設計されていますが、極端に厚みのある部分などは、それ以上にヒケが発生してしまうため、寸法変化を引き起こします。
その他にも、切削加工で切削時に発生した熱が原因で、加工後に温度が下がってから反りや歪みが発生して寸法変化を引き起こす場合もあります。
吸水・乾燥による膨張と収縮
プラスチック材料の多くは吸水すると膨張する特性があります。材質によって吸水率は大きく異なり、PTFEやPP、PEなどのほとんど吸水しないプラスチック材料もあれば、PA66やPA6、MCナイロンなどのナイロンのように全体に対して1%を超える吸水率を持つプラスチック材料もあります。
ナイロン材料のように吸水率の高いプラスチック材料は、吸水により膨張し、乾燥により収縮するため寸法安定性の面で劣ります。
残留応力による歪み
プラスチック材料は加工時に発生した残留応力により歪みができる場合があります。残留応力とは、加工時に掛かる圧力が不均一になると、プラスチック材料の内部から引っ張る力が発生することです。
その歪みに温度変化などの外的要因が加わると歪みが発生し、寸法変化を引き起こす場合があります。加工時には目立たなくても、冷却が進むにつれて徐々に表面に歪みとして発生する場合もあります。
寸法変化の具体的な対策
寸法変化を引き起こしやすいプラスチック材料を使用する場合で、できる限り寸法変化を引き起こさないためには、どのような対策を施せばいいのかについて見ていきましょう。
熱膨張率の低い材料を使う
最もシンプルな対策が熱膨張率の低い材料を使うことです。プラスチック製品が使われる温度環境を変えるというのはなかなか難しいですし、熱膨張率を抑えるということはできません。温度による寸法変化が気になるのであれば、熱膨張率の低いプラスチック材料を採用するのが最も簡単な対策となります。熱膨張率が低ければ、それだけ温度による寸法変化を起こしにくくなります。
熱膨張率は材料の「熱膨張係数」という値で確認でき、この数値が低ければ熱による寸法変化が少なくなります。プラスチック材料の熱膨張係数についていくつか紹介します。
プラスチック材料 | 熱膨張係数 |
PE(ポリエチレン) | 14〜15 |
POM(ポリアセタール) | 8.1〜8.5 |
PET(ポリエチレンテレフタレート) | 17.7〜39.4 |
PTFE(フッ素樹脂) | 10 |
PP(ポリプロピレン) | 5.8〜10.2 |
PA6(6ナイロン) | 5.9〜10 |
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン) | 6〜13 |
吸水率の低い材料を使う
湿度の高い環境で使用する場合は、吸水率の低いプラスチック材料を使うことで寸法変化を最小限に抑えられます。
吸水率の高いプラスチック材料にはPA6、PA66、MCナイロンなどのナイロン材料が主です。湿度の高い環境ではこれらの材料は使わないほうがいいでしょう。
反対に吸水率の低い材質ではPP、PE、PC、PTFEなどがあげられます。吸水での膨張が気になる場合はこれらの材質を採用してみてください。
アニール処理による歪み除去
熱膨張抑えるというのは難しいですが、加工時に発生した残留応力はアニール処理を行うことで除去できます。
アニール処理はプラスチック材料をガラス転移点前後の温度で保持することで、内部に発生した残留応力をなくし均質化する処理を指します。アニール処理を行うと内部の歪みが除去され、温度変化に伴う大きな歪みを予防できます。
結晶性のプラスチックと非結晶性のプラスチックでは加える温度に違いがあり、結晶性のプラスチックの場合はガラス転移点以上の温度で加熱します。非結晶性プラスチックの場合はガラス転移点よりも低い温度で加熱処理します。
アニール処理を行うことで、寸法変化だけでなくプラスチックの割れや変形を予防することもできるので、要求される環境がシビアな場合はアニール処理を行うと良いでしょう。