ケミカルクラックとは?
ケミカルクラックとは、プラスチックが薬品などに反応してひび割れたり、破損したりすることを指します。「ケミカルストレスクラック」「ソンベルトクラック」なども同じような意味を指す言葉です。
ケミカルクラックの発生は、プラスチック部品を接着剤で貼り付けようとしたり、機構部品の潤滑のために潤滑油を塗布したり、成形部品を塗装したりといったケースでよく発生します。
このケミカルクラックは「プラスチック材料の種類」と「使用する薬品の種類」の相性の悪さにより発生します。薬品にはガソリンや有機溶剤、潤滑油など様々なものがありますが、この点については後ほど詳しく解説します。
薬品を塗布してすぐにケミカルクラックが発生する場合であれば対処できますが、数ヶ月後、数年後にケミカルクラックが発生する可能性もあります。耐用年数や耐荷重量の基準値をはるかに下回る値で部品が破損してしまう可能性もあるので、ケミカルクラックは非常に危険です。
ホームセンターなどで「ABS専用接着剤」などと、使用できるプラスチックが定められている接着剤を見たことはないでしょうか。このような専用接着剤が売られているのは接着力のためだけでなく、ケミカルクラックを防ぐことも目的としているからです。
ケミカルクラックを引き起こさないためには、発生原理やプラスチック材料と薬品の相性を理解することが大切になってきます。
ケミカルクラックの主な発生原理
冒頭ではケミカルクラックの原因はプラスチックが薬品などに反応して起こると説明しました。厳密に言うとケミカルクラックは、薬品との反応だけで起こるのではなく、プラスチック材料に発生した応力と薬品との反応の2つが組み合わさってはじめて発生します。
応力とは材料の外部または内部からかかる力のことを指します。圧力による変形、熱膨張や熱収縮などが発生すると材料に歪みが発生します。これが応力です。
はっきりと解明されているわけではありませんが、ケミカルクラックは応力によって変形したプラスチック材料の分子間に薬品が浸透し、プラスチック材料の分子同士の結びつきを弱くすることで発生するとされています。
プラスチック製品は、射出成形や切削加工などで加工されるのが一般的です。外部から力がかかっていなくても、これらの加工方法では残留応力が必ず発生してしまいますので、プラスチック材料の応力を除去してケミカルクラックの発生を防ぐためにはコストがかかってしまいます。
プラスチック材料と薬品の相性を理解し、極力薬品がプラスチックに付着しないようにすることがケミカルクラックを防ぐために重要です。
ケミカルクラックを引き起こす薬品とプラスチック材料の相性
ケミカルクラックはプラスチック材料と薬品の関係性によって発生します。ほとんどの薬品に対してケミカルクラックが発生してしまうプラスチック材料もあれば、あらゆる薬品に対して強い耐性を持っているものもあります。
また、同じ樹脂素材であっても、性質の異なるグレードで耐薬品性が異なる場合があるので、薬品を使用する場合は耐薬品性について毎回調査するようにしたほうがいいでしょう。
代表的なプラスチック材料と薬品の相性についての一覧が下記の表です。✕はクラックが発生しやすく、△はクラックの発生原因となり得え、〇が影響なしとなっています。
潤滑油 | ガソリン・灯油 | メタノール | エタノール | アセトン | |
ABS | △ | ◯ | △ | △ | ✕ |
PP | ◯ | ◯ | △ | ◯ | △ |
PC | ✕ | ✕ | ✕ | ✕ | ✕ |
POM | ◯ | △ | △ | ◯ | ✕ |
PA6 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ✕ |
硬質PVC | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | △ |
上記の表にある通り、材料によってプラスチック材料によって、相性のいい薬品と悪い薬品があるのがわかります。特にPCは薬品に弱くなっているので、あらゆる薬品が掛からないようにすることが大切です。
上記の表以外にもたくさんの種類のプラスチックがある上、薬品にもたくさんの種類があります。そのため、プラスチック製品には性質のよくわからない潤滑油や有機溶剤のような薬品が付着しないように心懸けることが大切です。
ケミカルクラックを引き起こさないために抑えたいポイント
ケミカルクラックは、特別な環境下で発生するというものではなく、プラスチック材料によっては身近な薬品によって引き起こされるということがわかったと思います。ケミカルクラックを引き起こさないために、押さえたいポイントについて紹介していきます。
・薬品が付着しないようにする
・薬品を使用する場合は耐薬品性を満たした材料を使用する
近年ではコスト削減のため、金属部品の代替としてプラスチックが採用されるケースが多くなってきています。
金属の場合はグリスや有機溶剤がためらいなく使用されますが、プラスチックではそういうわけにはいきません。安全だと確信が持てない薬品は、付着しないようにしておくのがベストです。
また、プラスチック材料によって耐薬品性は大きく異なります。洗剤や有機溶剤などを使用する場合は、使用する薬品に耐性を持ったプラスチック材料を採用するようにしましょう。