金属材から樹脂材への代替と注意点

樹脂化するメリット

鉄やステンレス、アルミのような金属材料から、樹脂材料へと素材を変える動きが活発になっています。その背景には、従来では強度などの問題から樹脂材料が採用ができなかった部品であっても、使用に耐えうるだけの樹脂素材が開発された点や、加工技術の進化が大きいでしょう。

現在では、自動車のエンジン部品や航空機の部品など、200℃を超えるような過酷な環境であっても樹脂材料が利用されはじめています。金属材料の部品を樹脂化するメリットには次のようなものがあります。

金属から樹脂化

コストダウン

金属から樹脂に変更すると、材料費、部品の一体化、後加工の省略など、様々な面でコストダウンできる可能性が出てきます。金属部品であれば1つの製品複数工程必要だった加工であっても、樹脂成形であれば1つの工程で複数個作れる場合もあるのです。

ただし、スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)などの中には、金属よりも材料価格が高い場合もあるので、材料費の削減に関しては樹脂材料によって大きく異ることを覚えておきましょう。

また、金属の場合、目的の色味を出すには塗装やメッキなどの表面処理が必要です。しかし、樹脂の場合は顔料などを混ぜ込み加工することで、簡単に目的の色味を出すことができます。これにより、塗装などの表面処理に掛かる費用を大きく削減できます。

軽量化

樹脂の多くは比重が1~2であるのに対し、鉄は7.87、アルミは2.71、亜鉛は7.13となっています。全くの同形状で採用できるのであれば、軽量化においては圧倒的に樹脂に歩があります。このような理由から、重量が特に重要となる航空機などでは、積極的に金属部品の樹脂化が進められているのです。

電気絶縁性

金属と大きく性質が異なるのが電気絶縁性です。金属部品ではショートを防ぐために必要以上にスペースをとってまで絶縁加工を施していたのが、樹脂材料に変更するだけで1部品で絶縁加工までできてしまう場合もあります。部品の簡略化、コンパクト化まで一度にできてしまうので、電気絶縁性を求める場合は積極的に樹脂化を検討してみても良いでしょう。

樹脂素材の注意点と対策

樹脂素材にもよりますが、全般的に次のような注意点があります。

  • 耐熱性が低い
  • 機械的強度が低い
  • 有機溶剤に弱い

金属から置き換える場合は、上記の問題をクリアできるかどうかをまずチェックする必要があります。上記の問題と具体的な対策も含めて紹介していきます。

耐熱性の問題と対策

一般的な樹脂素材は、連続使用温度が200℃以下である場合が多く、金属に比べると耐熱性があるとは言えないレベルです。耐熱性に関してだけいえば、連続使用温度の高いスーパーエンプラを使用すれば、ある一定のレベルで対策が可能です。

・PAI(ポリアミドイミド)…連続使用温度275℃

・PEEK(ポリエーテルケトン)…連続使用温度250℃

・PPS(ポリフェニレンサルファイド)…連続使用温度220~240℃

耐熱性の要求レベルが上記の範囲内に収まるのであれば、樹脂材料への転換が可能です。ただし、部品に掛かる荷重によっては上記の連続使用温度よりも下回る可能性があるので、専門家に相談することをおすすめします。

機械的強度の問題と対策

機械的強度であれば、軽金属の強度に匹敵する場合も多く、スーパーエンプラだけでなく、エンプラでも十分実用できるレベルです。

エンプラでは、

・PA6(ポリアミド6)・PA66(ポリアミド66)…ナイロンと呼ばれる樹脂で、引張強さに優れる

・POM(ポリアセタール)…耐疲労性に優れ、自己潤滑性と寸法安定性が高い

・PC(ポリカーボネート)…耐衝撃性に優れ、警察が使用する盾にも採用されている

スーパーエンプラでは、

・PAI(ポリアミドイミド)…高温下でも高い強度を維持し、重機械などにも採用されています

・PEEK(ポリエーテルケトン)…高温下でも高い剛性と耐衝撃性を維持します

・PPS(ポリフェニレンサルファイド)…高温下でも機械的強度を維持し、特に耐疲労性に優れています

などが代表的です。

また、応力集中がおきないような形状で設計すれば、より樹脂素材への転換もしやすいでしょう。設計の自由度を活かすことも大切です。樹脂素材だけでは強度が足りないという場合であっても、30%程度のガラス繊維やカーボン繊維を添加して機械的強度を上げる方法もあります。

有機溶剤に弱い問題と対策

金属よりも、エンプラ、スーパーエンプラは耐薬品性に優れているものが多いですが、全般的に有機溶剤に弱い傾向にあります。有機溶剤が常にかかるような部品を樹脂材料に変更する場合は、有機溶剤に特に優れた耐性を持つ材質を選定する必要があります。


・PPS(ポリフェニレンサルファイド)…耐熱性、機械的強度に優れ、有機溶剤にも侵されません

・PES(ポリエーテルサルフォン)…有機溶剤耐性と加水分解性に特に優れています

・PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)…有機溶剤、酸、アルカリなどの薬品に対して優れた耐性を持っています

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