樹脂製品を試作から量産へ移行する際の注意点

量産に移行する前に確認しておきたいポイント

製品開発段階において、試作品から量産へ移行するとなった場合、量産加工に移る前に試作と量産の加工方法の違いに気をつけなければなりません。なぜなら、試作品で良いものができたとしても、量産品では生産効率が悪く思うようにコストが下がらなかったり、意匠性や強度などが加工の都合上で試作品と同じものができなかったりするからです。

試作から量産へ移行する際に特にチェックしておきたい項目は、下記の3つがあげられます。

  1. 量産時の形状制限
  2. 金型等のイニシャルコスト
  3. 最低ロット数

1.量産時の形状制限

試作品の加工と量産品の加工方法は大きく異なります。

試作品の場合、多くの場合において切削加工が利用されます。切削加工では実現できる形状であっても、量産加工となると生産性を著しく落とす形状であったり、不良品の原因となる形状であったり、そもそも製造ができない形状だったりと、様々な問題が発生する可能性があります。

量産でよく利用される射出成形、ブロー成形、押出成形など、それぞれで製造方法が大きく異なるため、量産できる形状にも各工法で差があります。試作品の形状をもって、どのような工法であれば量産性やコストメリットが高められるかを含めて検討していく必要があります。

同じ形状であっても、射出成形の金型メーカーによって製造できる場合とできない場合があります。そのため、一度金型の製作を断られたからと言って、絶対に製造が不可能というわけではありません。しかし、製造できない形状には共通点があるので、金型の構造などについて理解しておくと、どのような形状なら実現可能なのかが試作段階で把握できるようになります。

2.金型等のイニシャルコスト

製品コストが抑えられる量産加工では、基本的に金型が必要になってきます。加工方法によってその金型の価格は大きく変わりますが、いずれにせよ高額です。そのため、量産の加工方法は慎重に選定していく必要があります。

多くの樹脂製品の量産加工で利用される「射出成形」では、金型が50万円~と非常に高額です。さらに、製品の大きさが大きくなればなるほど、形状が複雑になればなるほど金型価格は高価になっていきます。

製品の形状によっては、複数の加工方法で加工ができる場合がありますが、製品単価だけでなく金型の価格も含めて加工方法を選定していく必要があります。

3.最低ロット数

金型を使って量産加工をする場合、材料の都合や製造時の段取りの都合で、最低ロット数が設定されている場合があります。

一般的な量産加工の方法である「射出成形」では、一般的な最低ロット数は1,000個~程度と設定されています。それよりも少ないロットになってしまうと、極端に製品単価が高くなり、製造自体を断られるという可能性も出てきます。

あまり製品数量が必要でない場合などは、最低ロット数を考慮しておかなければ、金型の価格が高すぎて、結果的に製品コストが高くなりすぎてしまったり、製造を断れられてしまう可能性もあります。量産化する場合はあらかじめかかる金型コストを意識しておいたほうが良いでしょう。

量産加工に向く加工方法と注意点

樹脂製品を量産する場合、次のような加工方法がよく利用されます。

  • 切削加工
  • 射出成形
  • ブロー成形
  • 押出成形

試作品ができあがり、これから量産加工の方法を検討していく場合の参考にしてみてください。

切削加工

樹脂切削加工

試作品を加工するのに最も頻繁に利用される切削加工ですが、量産加工でも切削加工はしばしば利用されます。切削加工は、マシニングセンタ、フライス盤、旋盤などで刃物を用いて材料を削り出す手法です。

切削加工を量産加工で利用するメリットは、イニシャルコストの低さにあります。一般的な量産加工では金型を利用するため、どうしてもイニシャルコストとして金型の制作費用がかかってきます。切削加工では金型を制作する必要はないのでイニシャルコストを低くできるのです。

イニシャルコストが低い反面、製品一つの加工に掛かる時間は長いので、製品単価は高くなってしまいますが、金型を作るほどの数量を製造しない場合の量産加工では、他の加工方法より切削加工の方が優れています。

量産数量が少ない場合は、切削加工を選択すると良いでしょう。

射出成形

射出成形

樹脂製品の量産加工で最も一般的なのが射出成形です。量産性や加工精度が高く、形状の自由度も高いのが特徴です。

射出成形の場合、金型コストが50万円~と掛かってしまいますが、良い材質の金型を作れば、100万ショット以上の寿命を確保できる場合もあります。大量生産であればあるほどコストメリットが出せる加工方法と言えるでしょう。

射出成形の場合、金型から製品を抜き取る必要があるので、金型から抜くことができるような形状でないと製造できないという弱点があるので、その点には注意が必要です。

ブロー成形

ブロー成形

ブロー成形は樹脂を風船のように膨らまし、金型で挟んで目的の形状を作りあげる

加工法です。ブロー成形で作られた製品の代表格は「ペットボトル」や「灯油ポリタンク」などです。

中空の製品を作るのに向いていますが、金型に触れていない部分がでてくるため、射出成形よりも精度は低くなってしまいます。反面、金型は射出成形よりも簡素で済むため、金型費用は抑えられるというメリットがあります。

押出成形

押出成形

押出成形とは、金型の中に材料を通して成形する加工方法のことで、レールなどの加工によく利用されます。棒状の形状に限定されてしまいますが、長さのある製品を量産加するのであれば、押出成形が最も適しています。

量産試作での検証も必要

「量産加工の方法も決まったから一安心」といきたいところですが、本格的に量産加工に移る前に、量産試作で製品の強度や機能テストを行っておいたほうがいいでしょう。なぜなら、試作品と量産品では、金型形状・加工性などの都合により、形状や材質変更になる場合があるからです。

一度、金型が出来上がってしまうと、大きな修正を行うにはコストと時間を要してしまいます。量産が始まったにもかかわらず、形状を変更することがないように、量産時の形状が決まった時点で、量産品と同じ形状で量産試作を製作することをおすすめします。

 

COPYRIGHT © 2020 ARAKAWA-GIKEN all rights reserved.