樹脂は、金属と並んで代表的な製品素材です。石油を原料として作られる合成樹脂、すなわち「プラスチック」は、現代の私たちの生活に欠かせません。樹脂の用途は幅広く種類も非常に多いため、どの樹脂がどんな性質を持つのか理解するのは少し大変です。今回は樹脂についての全体像をわかりやすくするため、樹脂の種類や特徴、各プラスチックの用途を体系的・網羅的に解説します。
樹脂の種類の特徴
樹脂とは「天然樹脂」と「合成樹脂」の2つを意味する言葉です。もともと、樹脂は文字どおり「樹の脂(やに)」を意味していました。1835年にフランス人のルノーがポリ塩化ビニルの粉末を発明して以降、さまざまな合成樹脂が登場し工業化に成功していきます。ここでは、天然樹脂と合成樹脂について説明します。
天然樹脂とは
天然樹脂とは、漆(うるし)や松脂(まつやに)など、主に樹木から採取可能な粘り気のある物質のことです。植物由来のものだけでなく、シェラックや膠(にかわ)などの動物由来のもの、あるいは天然アスファルトのような鉱物由来のものも含めて天然樹脂と呼ぶことがあります。
漆や松脂、天然ゴム、琥珀(こはく)、シェラック、膠(にかわ)、鼈甲(べっこう)、カゼインなどが代表的な天然樹脂です。
合成樹脂(プラスチック)とは
合成樹脂とはプラスチックのことです。プラスチックは石油の精製過程で生じる「ナフサ」を原料とします。ナフサに熱を加えて「エチレン」や「プロピレン」などに分解し、重合反応によって高分子化させたものが「ポリマー」です。ポリマーとなったエチレン、プロピレンはそれぞれ「ポリエチレン」「ポリプロピレン」と呼びます。
合成樹脂には日常的な用途に使われる「汎用プラスチック」や、ガラス繊維やカーボン繊維を加えて強度を高めた「繊維強化プラスチック(FRP)」などがあります。プラスチックは全般的に「自由な形状に加工しやすい」「生産コストが安い」「着色できる」といった加工上の利点を持ちますが、熱に弱くて燃えやすいのが欠点です。また、紫外線で劣化しやすく金属などと比べると強度が落ちるため、耐久性の高い素材とはいえません。
合成樹脂(プラスチック)の種類
プラスチックには多くの種類がありますが、「熱可塑性(ねつかそせい)」「熱硬化性(ねつこうかせい)」のどちらの特性を持つかで大きく2つに分類することができます。
ここでは、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂をそれぞれ解説し、両者の違いを比較します。
熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、熱による可塑性を持ちます。可塑性とは「力を加えると形状が変えられ、その力を取り除いても元に戻らない性質」のことです。熱可塑性樹脂は高温で柔らかくなり低温で硬くなります。加工時には融点まで加熱して液状にし、成形後に冷却して固体化させます。
熱を加えるだけで形状変化させられるため加工は容易なのですが、高温環境下では強度が保てなかったり変形したりしてしまいます。高温(一般的には100℃以上)でも耐えられるようにした熱可塑性樹脂を「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」と呼びます。
熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂も素材のときには加熱すると溶けて液状になりますが、一定温度を超えると化学変化を起こして硬化する合成樹脂です。一度固まると、再加熱しても熱可塑性樹脂のように柔らかくなったり溶けたりしません。熱硬化性樹脂の架橋結合という強固な分子構造が、分子の熱運動を制限するためです。
また、ポリウレタンなどのように、熱を加えずに硬化促進剤を用いて固形化するプラスチックも熱硬化性樹脂に含まれます。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の違い
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の最も大きな違いは、製品素材としての安定性や耐久性です。熱硬化性樹脂のほうが耐熱性や耐薬品性、機械的強度に優れるといったメリットがあります。一方で硬いがゆえに柔軟性はないため、強い衝撃で破損しやすいのがデメリットです。
加工に関しては、熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂よりも成形しやすく大量生産に向きます。熱硬化性樹脂は成形に時間がかかり、材料価格も高くなるためです。
リサイクル性も熱可塑性樹脂のほうが優れています。熱硬化性樹脂は熱や薬品に強く、溶解させるのが難しいプラスチックです。そのため、熱硬化性樹脂のスクラップや廃棄物は、再利用・再成形ができません。
熱可塑性樹脂 | 熱硬化性樹脂 | |
安定性・耐久性 | △ | ○ |
加工性・大量生産 | ○ | △ |
リサイクル性 | ○ | ✕ |
熱可塑性樹脂の種類と特徴・用途
熱可塑性樹脂は生活用品から産業用部品まで幅広く使われています。大きく分けると汎用プラスチックとエンジニアリングプラスチックの2種類で、エンジニアリングプラスチックはさらに汎用エンプラとスーパーエンプラに分けられます。
また、熱可塑性樹脂は分子構造によって「結晶性」と「非晶性」に分類することも可能です。結晶性が有機溶剤に耐性があり強度にも優れる一方で、非晶性は透明性が高いという傾向があります。
汎用プラスチック
汎用プラスチックは合成樹脂全体で最も一般的なもので、プラスチック生産の約8割を占めています。安価で加工性がよく、大量生産しやすいのが特徴です。
PE(ポリエチレン)/結晶性 | LDPE(低密度ポリエチレン)とHDPE(高密度ポリエチレン)がある。軽くて柔らかく、耐水性や耐薬品性にも優れる。包装用フィルムや液体容器など。 |
PP(ポリプロピレン)/結晶性 | 汎用プラスチックで最も軽く、耐熱性がある。自動車部品や医療器具、電子レンジ用容器などに用いる。 |
PVC(ポリ塩化ビニル)/非晶性 | 耐薬品性や耐油性、難燃性、電気絶縁性が特徴。水より比重が大きい。ホースや水道管、電線被覆など。 |
PS(ポリスチレン)/非晶性 | 耐水性があり、PSから作られる発泡スチロールは断熱保存に向く。CDケースや食品容器など。 |
ABS(ABS樹脂)/非晶性 | 成分比率を変えることで製品目的に合わせた性質を持たせられる樹脂。家電や電子機器類、雑貨類、自動車の内外装部品など用途は広い。 |
エンジニアリングプラスチック
汎用プラスチックの欠点を改善して機能性を高めた樹脂で、エンプラと略称されます。汎用プラスチックよりも耐熱性に優れ、強度も高いのが特徴です。エンプラには「汎用エンプラ」と「スーパーエンプラ」の2種類があります。
汎用エンプラ
エンプラは、一般的には耐熱温度が100℃以上の熱可塑性樹脂を指します。明確な定義はされていませんが、エンプラのうちスーパーエンプラに属さないものが汎用エンプラです。種類によっては強化されたグレードも存在します。
POM(ポリアセタール)/結晶性 | 耐摩擦性、耐疲労性があるため、外装や筐体、機構部品、駆動部品に用いられる。自動車のパワースライドドアシステム部品がその一例。 |
PA6・PA66(ポリアミド6・ポリアミド66)/結晶性 | 一般に「ナイロン」と呼ばれる。高い靱性や耐摩耗特性を持ち、染色性にも優れているため衣料用繊維に用いられるイメージが強いが、実際は自動車や電子機器類への需要が全体の55〜70%程度を占める。 |
PBT(ポリブチレンテレフタレート)/結晶性 | 耐薬品性や電気特性などに優れ、寸法安定性もよく加工しやすいエンプラ。主な用途は家電や電子部品、自動車の電装部品など。 |
PET(ポリエチレンテレフタレート)/結晶性 | エンプラとしてはガラス繊維などで強化する。耐熱性・耐寒性に優れ、-60℃〜150℃(熱変形温度は240℃)で使用可能。通常のPETの用途は飲料容器(ペットボトル)や衣料用繊維(テトロン、ポリエステル)など主に日用的なものだが、強化PETなら機械部品の素材にも利用できる。 |
m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)/非晶性 | 変性PPEとも呼ぶ。エンプラで最も軽く、機械的性質もバランスがとれている。自動車の外装部品や電装部品、複写機シャーシ、電源アダプター、医療器材など。 |
PC(ポリカーボネート)/非晶性 | 合成樹脂のなかでは耐衝撃性がトップクラスで、透明性も高い。携帯端末のケースとカメラレンズ、メガネレンズ、ヘッドランプなど。 |
スーパーエンプラ
汎用エンプラ以上に耐熱性や難燃性、その他の機能性を高め、金属代替品としてのニーズにも応えられる合成樹脂を指します。スーパーエンプラのほとんどが耐熱温度150℃以上です。
PPA(芳香族ポリアミド)/結晶性 | 強度や寸法精度がよく、コストパフォーマンスが高い。用途は主に自動車部品で、エンジン回りや電装部品、センサー部品に使われる。 |
PPS(ポリフェニレンスルファイド)/結晶性 | 220〜240℃の耐熱性を持つ。流動性にも優れるため薄肉化が可能。自動車などの機構部品、バルブ、歯車、ピストンリングなど。 |
PSU(ポリサルホン)/結晶性 | 成形加工性がよく、金属を上回るほどの耐薬品性や耐加水分解性を誇る。医療機器の金属代替素材、あるいはガラスの代替素材として用いられる。 |
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)/結晶性 | 高価だが機能性は熱可塑性樹脂のなかで最高クラス。耐熱性も240〜250℃と高い。使用環境が過酷で、交換が難しい機械類の機構部品のほか、宇宙・航空用部品などにも使用される。 |
PEI(ポリエーテルイミド)/非晶性 | 耐熱水性や電気絶縁性が高いため、コネクタやプリント基板に使用される。自動車のリフレクタやフォグランプ、航空用部品、食品用の耐熱容器といった用途もある。 |
PAI(ポリアミドイミド)/非晶性 | 耐摩耗性が高く、275℃まで強度と剛性を保持する。耐クリープ性や耐薬品性にも優れるが価格も高い。自動車のエンジン部品やトランスミッション部品、産業機器の機構部分に使用される。 |
ほかにも、LCP(液晶ポリマー)、PES(ポリエーテルサルホン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PAR(ポリアリレート)、TPI(熱可塑性ポリイミド)といったスーパーエンプラがあります。
熱硬化性樹脂の種類と特徴・用途
加熱して固化させる熱硬化性樹脂は、成形方法も熱可塑性樹脂と異なります。熱可塑性樹脂でよく用いられる射出成形は熱硬化性樹脂では一部のものに限られ、圧縮成形やトランスファー成形、積層成形をおこなうのが一般的です。
PF(フェノール樹脂) | 樹脂の製品名である「ベークライト」とも呼ばれる。耐薬品性や電気絶縁性を持ち、耐熱性と耐寒性にも優れる。自動車や鉄道関連の部品、調理器具などに利用。 |
EP(エポキシ樹脂) | 硬化剤と組み合わせて用いる接着性の高い樹脂素材。金属やガラスとの相性がよい。塗料や接着剤として使用するほか、プリント基板への用途もある。 |
MF(メラミン樹脂) | 硬度が高くキズがつきにくい。耐水性や耐薬品性があり、光沢があって着色もしやすいことから食器類に用いられる。ほかの用途としては電気部品や塗料など。 |
UF(ユリア樹脂) | 熱硬化性樹脂のなかでは安価。硬度は高いがもろく、耐薬品性や耐熱水性にも難がある。電気機器の部品や接着剤に使用する。 |
PUR(ポリウレタン樹脂) | 成形時に発泡させる「フォームタイプ」と発泡させない「非フォームタイプ」がある。機械的強度と耐薬品性に優れるが、水に弱い。自動車用部品や繊維製品、塗料など。 |
UP(不飽和ポリエステル樹脂) | 機械的強度が高く、耐水性や耐熱性、耐薬品性に優れる。塗料や化粧板のほか、FRPとしては、浴槽や浴室ユニット、便器といった水回り器具への活用がある。 |
熱硬化性樹脂には、ほかにSI(シリコン樹脂)、DAP(ジアリルフタレート樹脂)、ALK(アルキド樹脂)などもあります。