樹脂筐体(プラスチックケース)は、電子機器や電気機械、各種装置類の外装として広く利用されています。樹脂筐体の採用には製品の軽量化、あるいはコストダウンなどのメリットがありますが、耐久性には不安があるといったデメリットも理解しておくことが重要です。今回は、筐体の基礎知識から、樹脂筐体の特徴や用途、メリット・デメリット、設計の流れとポイントまでを詳しく解説します。
筐体とは
筐体の意味と役割
筐体は機械製品の部品やユニットを収めた箱状の外装部品を意味します。「ケース」「ハウジング」「エンクロージャー」などとも称され、製品の内容物に合わせてサイズや形状は異なります。具体例としては、パソコンやスマートフォンのケース、自動車のボディ、家電製品の外装などです。
筐体の主な役割は、製品に必要な機械部品やユニットを一か所にまとめ、筐体内の適切な位置に固定することにあります。内部部品を密閉することでホコリや汚れから保護すると同時に、衝撃・振動などの物理的なダメージも軽減します。
筐体の種類
筐体の種類は、製品の仕様および用途に応じて多種多様です。主要な材質で分類すると、樹脂筐体、板金筐体、ダイカスト筐体、セラミック筐体があります。
<樹脂筐体>
樹脂筐体は樹脂(プラスチック)を原料とし、射出成型による作成が主流です。軽量で量産向きという特徴がありますが、強度や耐環境性能は他の筐体材料ほど高くはありません。
<板金筐体>
板金筐体は鉄やステンレスなどを加工して作られます。機械的強度、耐環境性、耐久性が高く、放熱性にも優れるため、厳しい環境下でも適用可能な筐体です。ただし、製品重量が大きくなる上に、大量生産には不向きであるという欠点があります。
<ダイカスト筐体>
ダイカスト筐体は、アルミや亜鉛などを鋳造して作成する筐体です。低コストで量産性に優れ、複雑な形状にも対応できます。放熱性や耐環境性に関しても優秀なため、電子機器の筐体によく用いられています。
<セラミック筐体>
セラミック筐体は腐食に強く、超高温にも耐えられるのが特徴です。ただし、セラミックは他の素材より加工性が低く、熱伝導性や耐衝撃性には難があります。これらの条件が適合する特殊な環境下でなければ基本的に採用されません。
樹脂筐体とは
樹脂筐体とは、合成樹脂(プラスチック)でできた外装部品を指します。樹脂筐体は金属製筐体に比べて軽量であるため、取り回しの良さや持ち運びやすさに優れるのが特徴です。また、金型を使えば大量生産も可能なため、幅広い製品で樹脂筐体が活用されています。以下、樹脂筐体の特徴や用途について説明します。
樹脂筐体の特徴
樹脂筐体は比較的加工しやすく、材料も安価なため製造コストを抑えられます。樹脂は軽くて扱いやすく、大量生産にも適しているので筐体材料として一般的な素材です。高い絶縁性もあるため、電気機械や家電製品にも適しています。その一方で、機械的強度や気密性は必ずしも高いわけではなく、長期にわたる使用や過酷な環境下での利用には向かない場合もあります。
樹脂筐体に用いられる樹脂素材は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、PET、アクリルなどです。樹脂素材の特性によって、強度や耐久性、耐熱性、重量といった筐体が持つ特徴も変化するため、用途に合った材質を選ぶ必要があります。特に、樹脂は全般的に有機溶媒に弱いため、薬品に接触する可能性がある筐体には、フッ素系樹脂のような耐薬品性に優れる樹脂素材が適切です。
樹脂筐体の用途
私たちの身の回りを見渡せば、電化製品のほとんどに樹脂筐体が用いられていることに気づくでしょう。テレビや冷蔵庫、掃除機といった家電のほか、スマートフォンやタブレットPCのようなガジェット類など、樹脂筐体でないものを見つけるのは難しいかもしれません。プラスチックケースは軽量で安価なため、家庭用の衣装ボックスから工場での製品保管箱、実験室のサンプルボックスまで、多種多様な用途で利用されています。
産業分野では、特定の用途に対応した樹脂筐体も提供されています。具体的な例としては防水・防塵機能がある通信機器ボックス、耐薬品性が必要な実験機器筐体、半導体あるいはシリコン基板の運搬用ケースなどです。射出成型や切削加工によって複雑な形状も作成できるため、外観デザインでの差別化を図ることもできます。
樹脂筐体のメリット・デメリット
筐体に樹脂素材を採用する場合は、事前にメリット・デメリットを確認しておきましょう。特に金属製筐体と比較して、どちらが適切なのかよく検討することが重要です。
樹脂筐体のメリット
板金筐体やダイカスト筐体などの金属製筐体と比べて、樹脂筐体は大幅な軽量化が可能です。軽量化によって製品運搬時の効率化・省エネ化を実現できます。複雑でない形状の場合、射出成型を採用すれば低コストかつ短期間での大量生産も容易です。
また、樹脂筐体は防錆性と耐薬品性を示すだけでなく、着色や透明化もしやすいためデザイン性にも優れます。絶縁性もあるため、電子機器の筐体材料に最適です。これらの金属製筐体では得られにくい多くの機能性が、樹脂筐体のメリットといえます。
樹脂筐体のデメリット
樹脂筐体のデメリットの1つは、物理的な強度や耐久性が金属製筐体に比べて低いことです。高温や極低温、直射日光などの厳しい環境下での利用には向いていません。樹脂は温度や湿気の影響を受けやすいため、筐体が膨張・収縮したり、反りやねじれが起こったりする可能性もあります。そもそもの寸法安定性も低く、高い精度を維持するのが金属製筐体よりも困難です。筐体に用いる樹脂によっては、変形防止もしくは変形緩和の処理をおこなう必要があります。
また、樹脂筐体の熱伝導率は高くないため、放熱が必要な機器の筐体には不適合となる場合があることも覚えておきましょう。樹脂は帯電性もあるので、静電気に敏感な製品を収納・保管する用途は避けるべきです。
機能性が高いエンジニアリングプラスチックやスーパーエンプラを採用すれば、樹脂素材の弱点を補える可能性があります。しかし、金属製の筐体以上に高コストになったり、特殊な加工技術が必要になったりするため、素材選択は慎重におこないましょう。
樹脂筐体の設計
ここでは、樹脂筐体を設計する流れとポイントについて解説します。
樹脂筐体設計の流れ
一般的には、以下のような流れで筐体設計を進めていきます。
1)企画立案
製品機能、使用環境、ターゲット顧客、予算などの要素を検討・決定します。
2)仕様決定
企画内容に基づき、筐体サイズやデザイン、使用素材を決定します。
3)CAD設計
CADによって筐体の3Dモデルを作成し、図面を起こします。製品の各部品が適切に配置されて想定どおり機能するよう、それぞれの設計担当者が十分にコミュニケーションをおこなわなければなりません。
4)試作・評価
試作品を作成します。仕様どおりに機能を持たせられるか確認する「機能試作」や、市場ニーズや使いやすさを具体化する「デザイン試作」などを経て、最終的には「量産試作」で量産化が可能かどうか評価します。
樹脂筐体設計のポイント
・筐体に求められている機能を明確にする
企画立案~仕様決定の段階で、筐体に求められている機能を明確にしておかなければなりません。あいまいな状態で製作を進めてしまうと、製品化したときに設計思想とのズレが起こってしまうためです。コストや納期によって制限が出てくる場合には、どの機能を優先すべきか熟慮する必要があります。
<筐体に求められる代表的な機能>
耐衝撃性 | 防塵性 | 防水性 |
静粛性 | 耐熱性 | 気密性 |
デザイン性 | 安全性 | 耐久性 |
・高精度な試作品を作る
開発コスト削減のために3Dプリンタで簡易的な試作品を作成し、加工や組み立てなど量産化前の確認作業をおこなうケースも増えてきました。しかし、3Dモデルの試作品は完成品と同じ樹脂素材でなかったり、精度があまり高くなかったりするため、寸法ズレや部品干渉といった思わぬトラブルが生じるリスクもあります。
試作品を高い精度で作成して、より正確に評価したい場合には、樹脂切削加工がおすすめです。採用予定の樹脂ペレットで積層成形ブロックを作成し、それを切削加工することで完成品と同等の試作品を手に入れることができます。形状やサイズ、強度などが厳密に評価可能なため、樹脂筐体を設計する上で非常に有益です。